何も不都合はないのに「1/3」に違和感があるのは何故?「眠り姫問題」

  • 何も不都合はないのに、違和感がある

 「眠り姫問題」は条件付き確率の問題です。前の記事に書いたように、淡々と考えれば「1/3」という答えが出ます。事前確率を問う問題と解釈する以外では、「1/2」には、決してなりません。なぜなら、

・コインの表と裏が出る事前確率P(A)=P(a)=1/2

(コインに歪みはない)

・表で目覚めている確率P(A∧B)と表で目覚めない確率P(A∧b)が等しい

(表なら月曜に目覚め、火曜日は寝覚めない)

・裏で目覚めない確率P(a∧b)=0

(裏なら月曜日も火曜日も目覚める)

の3つの条件を満たす、P(A∧B)=P(a∧B)となる答えはありません。従って、目覚めているという条件付き確率P(A|B)=P(A∧B)/{P(A∧B)+P(a∧B)}は1/2にはなりません。

 極めて単純な結論であり、「1/3」だと矛盾が生じるとか理屈に合わないということは一切ないのに、「1/3」に違和感があるのは何故なのかを暇つぶしに考え続けてきました。ただただ直観に反して違和感があるというだけです。そしてこの違和感は「眠り姫問題」だけでなく条件付き確率一般に感じられるものとどうやら同じらしいということも以前の記事に書きました。その点をもう少し考察してみます。違和感にも強弱があって、多数回試行がイメージしにくい1回だけの出来事の場合強くなるようです。

 

  • 条件付き確率の条件が意識されにくくなる

 単純な条件付き確率では、違和感が少ないものもあります。例えば、サイコロを振って奇数の目が出る事前確率は1/2です。これに4以上の目という条件を付ければ1/3になります。数式で書けば、

 P(奇数)=1/2P(奇数∧4以上)=1/6P(4以上)=1/2

 以上より、P(奇数|4以上)= P(奇数∧4以上)/ P(奇数)=1/3

 しかし、こんな数式など使わずに、4以上の奇数の目は1個、4以上の目は3個だから、1/3と普通は考えます。頻度を数え上げて、最後に割り算をして確率にするほうが感覚的に分かり安いからです。頻度を数えるのは多数回試行で考えるということです。これに対して最初から確率を用いて条件付き確率の公式を使うのは感覚的に少しわかりにくくなります。

 そして、頻度で数えることは出来るけどなんとなく、数えにくい問題もあります。以前の記事の製品検査バージョンを再掲します。

 

製品検査バージョン2

 旧工作機械と新工作機械の2台を持つ工場がある。どちらの機械のも1日当たり生産能力は同じである。ただし、旧工作機械は製品の半数が不合格品になる。それに対し新工作機械は全部合格品になる。ある日に生産された合格品から1個を取り出した時、旧工作機械で作られた製品である確率を求めよ。

 

製品検査バージョン3

旧工作機械は製品の半数が不合格品になる。新工作機械は全部合格品になる。コインを投げ表がでたら旧工作機械で、裏が出たら新工作機械で1個だけ製品を作る。その製品は、合格品であった。さて、コインが表だった確率は?

  

 バージョン2は多数の合格品から1個抜き出した製品が旧工作機械で作られた確率を尋ねています。それに対して、バージョン3は1個だけしか作っていない製品について尋ねています。前者では「合格品」という条件の使い方が分かり安くなっています。新旧工作機械で100個ずつ作ったのであれば、旧50個と新100個、計150個の合格品から1個を取り出した時の確率と自然に考えられます。一方後者のバージョン3では、最初から確率で考えるように誘導され、合格品という条件をどのように反映してよいか直観的に分かりにくいです。

 確率で表せば、下式になりますが、なんとなくピンと来なくなります。

  P(旧|合格品)=P(旧∧合格品)/P(合格品)

 1つだけしかない製品が合格品である確率P(合格品)なるものがイメージしにくい上に、その製品が旧工作機械で作られた確率P(旧|合格品)となると、モヤモヤしてきます。

  •  条件らしくない条件

 「眠り姫問題」では更に「目覚め」という条件を意識させない仕掛けがあります。通常は「条件」を付ければ範囲を狭めることになります。4以上という条件を付ければサイコロの目の可能性は6から3に減ります。ところが「眠り姫問題」では、逆に広げているように見えます。コインの裏が出た100回の内、目覚めている50回に制限するのは条件という感がしますが、1回しか出ていない裏で2回目覚めさせるのは、逆に拡大しているように感じます。しかし、これは相対的なトリックで、月曜日と火曜日の二つの状態があるうち、表の場合は目覚めていない火曜日を排除する制限です。月表火表月裏火裏から火表を引くのと、月表月裏火裏を加えるのは同じです。

 「眠り姫問題」で考えなければならない出来事は、眠り姫の状態です。コインの表裏、月曜か火曜か、目覚めているか眠っているかの組合せで8つの状態があります。目覚め状態という条件で、表である確率を尋ねています。ところが、前述のように月表月裏火裏を加えるイメージだと、月裏火裏が一つの出来事と認識されやすくなります。月裏火裏が一つの出来事とするならば表の場合の月表火表も同様に一つの出来事とすべきですが、それはしにくいというご都合主義が人間の感覚にはあるようです。ご都合主義をやめれば、寝覚め・眠りという区別もなくなります。それは結局、表と裏の二つの状態のうち表の確率すなわち事前確率を尋ねていることになります。

 

  • 条件らしい条件バージョン

 月裏と火裏を一つの出来事として扱い条件付き確率の条件らしくして、さらに表の場合の目覚めと眠りをご都合主義ではなく二つの出来事として扱えるようにしたバージョンです。このバージョンでは眠り姫は記憶を失う必要はありません。

 

 日曜日に投げられたコインが表だった場合、月曜の朝に再度コインを投げ、表だったら眠り姫を起こし質問をする。裏なら起こさない。日曜に投げられたコインが裏だった場合は月曜日に起こして質問する。

 質問を受けた時にコインが表だった確率は?

 

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