「眠り姫問題」混乱する原因 ― 多重人格バージョン

  • 1/3と考える消極的理由

 nananana0110さんから前の記事に興味深くて貴重なコメントを頂きました。

 まとめの記事を書いたばかりですが、コメントも頂いていろいろ混乱する原因を考えたので、再び記事を書きました。

  nananana0110さんがおっしゃる通り、そもそも何を答えるべきなのかあやふやなのだと思います。ではなぜあやふやなのに、あやふやと感じないで「1/2だ。いや1/3だ。」と論争になるのでしょうか。その前に、あやふやと言いながら私は1/3と主張しています。その理由を最初に述べます。

 ゆがみのないコインを投げ表が出た事前確率なら答えは「1/2」です。しかし、「眠り姫問題」の諸条件の下での事後確率なら「1/3」が妥当と思います。質問を分解してみます。

 

問1-1「今が月曜日の確率は?」

 多分、2/3という答えが多いと思います。火曜日には目覚めない場合もありますから。

問1-2「今が月曜日で、表がでた確率は?」

 最初の質問に2/3と答えたのなら、その1/2で1/3と答えるのではないでしょうか。

問2-1「あなたが目覚める前に表が出た確率は?

 この質問はあいまいですが、目覚めたという条件がないと考えてください。1/2という答えが多いと思います。

問2-2「あなたが目覚める前に表が出て、目覚めた今が月曜日の確率は?」

 表が出た場合は月曜しか目覚めないので、1/2×1=1/2と答える人も多いと思います。

 

 問1-2と問2-2は同じ質問のように見えますが答えが違います。何故でしょうか。問1の場合は最初から表火は排除して考えています。つまり、表月、裏月、裏火の3つの可能性のうち表月、裏月の比率を問1-1で尋ね、さらに問1-2で問1-1の答えに表月、裏月のうち表月の比率を乗じるように誘導しています。

 一方の問2では、最初は表火を排除していません。問2-1は表月、表火、裏月、裏火に4つの可能性のうち表月、表火の比率を尋ねているのに、問2-2で、既に表火が排除されているように誤誘導しています。正解は問2-1の答えに1/2を乗じ1/4となります。問2シリーズは、4つの可能性のうちの一つですから1/4となり、問1シリーズは3つの可能性のうちの一つですから1/3です。別に矛盾はありません。

 問2-1で、表火を最初から削除された形で尋ねるのならば、表月、裏月、裏火のうち表月の確率を尋ねることになり、答えは1/3です。これがもともとの「眠り姫問題」の質問(問0)です。問2シリーズはあいまいで混乱を招く質問で、「眠り姫問題」は、それに類した推論に誘導されるように作られていると思います。「眠り姫問題」は問2-1を尋ねていると解釈することも可能ですが、それならば記憶が無くなるというような気持ち悪い設定は不要です。確かに事前確率と事後確率のどちらを尋ねているかあやふやですが、設定を使う方が妥当だろうということで私の意見は1/3なのです。

 

  • 混乱する原因

 何故このような混乱が起こるのかですが、条件付確率に付き物の混乱ではないでしょうか。なお、ここからは心理の話なのであくまでも推測になります。

 条件付確率では事前確率や事後確率という言葉があり、時系列的な前後関係を意味しているわけではないのですが、何となくそのような印象を与えています。さらに確率には、将来起こる不確実な事柄というイメージがありますが、既に起こってしまった過去の出来事も確率として扱います。未来、過去、実際の状態に無関係に得られている情報から考えて可能性のある事柄のうち、特定の事柄の比率を確率と言っているだけです。初期状態で得られている情報での確率を事前確率といい、情報が増えて修正した確率が事後確率です。

 そうなのですが、人間の心理は時系列や実際の状態(たとえ不明でも)というものにどうしても影響されます。「眠り姫問題」では最初のコインが投げられ表裏は決まっています。それは変わりませんが、得られた情報で確率は変わるというところに違和感があるのだと思います。前述の問1-2で用いる表の確率は月曜日という条件付き確率で、無条件の場合の事前確率とは違うのですが、結果的に1/2と同じ値になるので、意識せずに済みます。

 ところが問2シリーズになると、表の確率や月曜日の確率が、目覚める前という条件なのか目覚めた条件なのかで違うため、正しく考えるには意識する必要があります。問1-1の月曜日の確率は目覚めている条件を意識しやすいですが、問2-2の質問やもともとの問0では意識しにくいのではないでしょうか。

 それに加えて、記憶がなくなるという非現実的な設定も経験がないので想像しにくいです。ところで、記憶が無くなるのは、人格が分裂し別人格の記憶がなくなる多重人格に似ています。ということでまたまた別バージョンを作ってみました。

 

  • 多重人格バージョン

 多重人格の眠り姫がいる。分裂した人格は全く同じで区別がつかず自分でもわからず、他人格のときの記憶は残らない。また分裂する前の人格は共有していて、その経験を記憶している。

 コイン投げが分裂のスイッチになる。表が出ると1日だけ姫Aになり、裏が出ると1日目は姫Bに2日目には姫Cになる。人格が変わった時に次に質問をする。

 なお、以上の状況は分裂前にすべて説明してある。

 

問1 あなたが姫Aである確率は?

問2  コインが表だった確率は?

 

 問1と問2は同じ質問であると私は考えます。

 

(3/17 追記)

 1/2と1/3以外の答えがなく、1/2と1/3の何れで考えても矛盾が発生するならパラドックスです。でも私は、1/2では矛盾が生じますが、1/3では生じないと思います。1/3での矛盾が何か私にはよくわからないのですが、実験前は1/2、実験中は1/3、実験後に1/2と眠り姫の答えが変わるのは矛盾ではありませんね。それぞれの時点の情報量が違いますから。

 にもかかわらず、「記憶が消え,る」ガジェットが矛盾のように感じさせるのではないでしょうか。記憶がある普通の状態では情報量は増えつづけ、減ることはありませんが(過去の情報が間違いと取り消されることはあります。)この問題では増えたり減ったりします。実験中は質問をされているという情報が増え、実験後に記憶が消えれば実験前と同じ情報量に戻ります。裏火で質問を受けている状況も裏月から情報量は増えません。現実にこのような経験をすることはないので奇妙に感じるのではないでしょうか。

 これ以外の矛盾があるのかもしれませんが、今のところ知りません。気づいていないだけかもしれませんので、気づいたときには意見が変わる可能性もあります。