爆弾

新幹線とかで「倒していいですか」って言ってくる人 
何なの。「駄目です」って答えたらどうなるの?好きに倒してほしい。

 はてな匿名ダイアリーの記事です。誰でも考えたことがある屁理屈ネタですが、最近あったちょっとしたトラブルを思い出して、あれこれ屈折したことを考えてしまいましたよ。

 記事のネタと、現実の社会生活は、違います。「倒していいですか」と訊ねられて、「別に自由でしょ。好きに倒せば」と、一時期の沢尻エリカ風情で刺々しく応える人は殆どいません。「おはようございます。」という挨拶に、「何なの。もう9時だぜ、全然早くないぞ」と屁理屈をこねて、ケンカを売るようなものですからね。もっとも、世の中にはいろんな人がいますから、こういう態度が皆無とは言いませんが、少なくとも自分は、あいさつや礼儀はわきまえている常識人なので、こんな言動はしません。

 と言いたいところですが、私はまだまだ人間が出来ていませんでした。それを痛感させられたのが、冒頭に述べたささいなトラブルです。とあるスキー場でリフトから降りて、コースに行こうとしていた時の出来事です。急斜面なので、初心者が迷い込まないように、ネットを張ってあり、一人が通れるぐらいの隙間が空けてありました。少し疲れていたので、休もうか、休むならどこが良いかなと考えごとをしてしまい、何気なくそこで、立ち止まりました。混んでいれば、そんなことはしませんが、周囲には人っ子一人いないガラ空きだったので、つい止まってしまったのです。

 突然、「馬鹿野郎!危ねえだろうが。そんなとこに立ち止まるな」と大声で後ろから怒鳴られました。全くもって、自分に非がある状況ですが、罵倒に驚いて謝りの言葉も出てこず、慌てて、脇によけました。大声の主は先に進んで行きましたが、よほど頭にきているらしく、執拗に罵声を浴びせていました。あまりの罵倒に、自分の非も忘れ、ムカッとなり、こちらも大声で「悪かったね。」と厭味ったらしく言ってしまいました。これを聞いた相手は、立ち止まって振り返り、「まだ、ごちゃごちゃ言ってんのか」と不穏な雰囲気を漂わせています。しつこくごちゃごちゃ言ってんのは、そっちの方じゃないかと、ますますムカッとなり、「ああ、ごめんよ。以後、気をつけるよ」と、全然誠意のない刺々しい言い方で応酬しました。

 一つ間違えれば、暴力沙汰になりかねない状況でしたが、相手も、言葉ほど暴力的ではないらしく、去っていきました。最悪の事態には至らなかったものの、むかっ腹はなかなか収まりません。そんな気分で滑っては怪我しかねません。元々、休もうかと思っていたので、しばらく休んで、少し気を落ち着けてましたが、グズグズとした気分はかなり尾を引きましたね。

 車の運転や電車内でトラブルになりそうなことがあります。そういう場合、下手に正当性を主張したりせずに、引き下がるという情けない態度を私は、心がけています。にもかかわらず、状況次第では感情的な反応をしてしまうものだとよくわかりました。多分、非日常の世界という状況に加え、かなりの運動量をこなしていて、理性よりも感情が支配的な心理だったのかもしれません。
 
 多くのトラブルがつまらない感情によって事態を悪化させます。私に非があることはわかっていましたが、「注意するにしても言い方があるだろう」と頭に血が上りました。それで、厭味ったらしく形だけの謝罪したわけですが、今度は相手が「謝罪するにしても言い方があるだろう」となったのでしょう。もはや、発端の原因はどこかにいってしまい、相手の態度が気に入らないという感情が正のフィードバック反応を起こしかけたのです。幸いにも、破滅的事象に至らず収束しましたが、危うい所でした。

 相手の非について理路を尽くして説明しているつもりが、気に入らない野郎だという感情を正当化する屁理屈になってしているわけです。この感情は制御できません。今は、達観したようなことを書いていますが、思い出すと胸糞わるくなりますからね。

 新幹線の背もたれに戻ると、私は、倒されるのは嫌なんですよ。でも、駄目だとは断れない。だから、匿名ダイアリーを書いた人の気持ちはわかります。もし、全然気にならないし、断りなく自由に倒して構わないと思っているなら、訊ねられた時に怪訝に感じるだけでしょうね。実際に「好きに倒せば」とケンカを売るようなことを言う人は稀ですが、倒されるのは嫌だと思っている人は結構いるんじゃないかなあ。みんな爆弾を抱えているのじゃないですかね。めったに爆発しないけど、絶対爆発しない保証はない奴を。


【蛇足】この記事を書いていて、大昔の出来事を思い出しましたよ。1980年代の始めの頃、新宿ピットインで、今は亡き浅川マキのライブを聞いたことがあります。何故行ったのか思い出せませんが、当時は、まだ20代で、動機不明の行動をよくしていたような。
 それはともかく、開演時間になっても浅川マキは姿をみせず、1時間遅れでやっと現れました。何事もなかったように、普通に挨拶しはじめたのですよ。すると、耐えかねた様子の観客の一人が「これだけ待たせて、一言の謝罪もないのか」とまあもっともな苦情を呈したんですね。すると、彼女は、それこそ一言、低いトーンで「悪かったわねえ」