建物の地下部分の水平震度が0.1なのは,剛性が大きいことが主因であることは以前に示した。別に地盤に接していなくても構わないし,地上でも構わない。とはいえ,地盤で押えればさらに動きにくくなるのであるから,地盤への根入れ効果もある。問題は,それがどれほどなのかである。多くの人が,素朴なイメージで過大評価しているようだ。そこで,豊洲市場水産仲卸棟で計算してみた。大した計算ではない。
計算は,周囲の地盤の固さを計算すればよい。これと,建物の地下部分の固さを比較すれば,地盤への根入れ効果がどの程度のものか,定量的に分かる。
計算過程を読むのは面倒だという人のために,先に結果を示すと,地盤の抵抗の大きい短辺方向に地表面を1cm動かすのに必要な水平力は,25,000トンである。一方,建物の1階床を同じだけ動かす水平力は,1,200,000トンである。
周辺地盤の水平剛性は建物の1/50程度しかない。地下を周辺地盤で拘束しても,地盤は水平力の2%程度しか負担しない。ユルユルの表層地盤も人間のスケールではしっかりしているように感じるが,建築スケールでみると,豆腐みたいなものだ。地球スケールなら,岩盤も水あめみたいなものだ。人間は日常生活のスケールにとらわれていることを実感できるだろう。
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以下に計算過程を示す。
地盤の固さを表す指標として,変形係数E(ヤング率)がある。平板載荷試験などで求めることができるが,標準貫入試験のN値から求める略算法もある。建築基礎構造設計指針には,次の二つの式が掲載されている。
過圧密された砂 Es=2.8N (MN/㎡)
正規圧密された砂 Es=1.4N (MN/㎡)
計算は,出来るだけ固めに評価しよう。それでも大したことは無いと示す為である。よって,Es=2.8N (MN/㎡)を採用する。盛土のN値は5〜10程度と言われる。10という固い良質な盛土は稀らしいが,これを採用する。
E=2.8×10 MN/㎡=2.8×10^4 kN/㎡
これから,地盤の水平方向の地盤反力係数を求めるが,理論的には非常に複雑で困難である。そこで,理論値を実験データで経験的に修正した計算式があり,「道路橋示方書」に掲載されている。この式に上記のNを代入すると,次の式が得られる。
k=3783・α・N・(B・L)^-0.375 (kN/㎥)
α:補正係数,常時 1,地震時 2
B:基礎幅(m) (地下壁高さ 豊洲市場建物 4m)
L:基礎長(m)(地下壁長さ 豊洲市場建物長辺 200m)
計算すると,
k=63,000 kN/㎥
これより,周辺地盤の地表面を単位長さ変位させる水平力(剛性)は,
1/2× k×B×L=5.0×10^7 kN/m =2.5×10^4 t/cm
一方,豊洲市場建物の地下剛性は,日建設計の資料より計算できる。地上部分の重量213000t,地下も同じとすると,地下部分の層剪断力は,
213000×0.2+213000×0.1=63900t
地下部分の地震時水平変位は,0.054cm なので,バネ係数(剛性)は