築地市場の利権

 築地は銀座に近い一等地で,商売人にとっては極めて収益性の高い土地ですので,路線価格も賃料もそれ相応に高いと思います。一般的に,固定資産税と都市計画税の3倍程度が相場らしいです。鮮魚の仲卸にとっても銀座の高級店を控えて,高い賃料を支払っても商売上魅力的な土地であることは間違いないと思います。しかし,築地の仲卸の大家は東京都卸売市場であり,賃料は民間相場よりはるかに安いと思います。平米あたり2000円程度の施設使用料と,その倍程度の売上高割使用料のようです。それ以外にも倉庫や冷蔵庫の使用料などもありますが,平米単価はさらに安くなっています。

 安いのは,食の流通には公共性があるので,東京都卸売市場が赤字になっても負担しているからでしょう。ただ,銀座の高級店に卸す仕事にそれほどの公共性があるのか,はなはだ疑問であることは以前にも述べました。それに,一般消費者が利用する庶民的なスーパーに卸すのなら,別に一等地でなくてもよいような気がします。

 営利ではない官公庁施設は,地価の高い中心部から,郊外へと移転させるというのが財務省の方針のようです。都市中心部の土地を売れば,郊外の土地購入費と建物建設費と引っ越し費用を支払ってもおつりがくる場合が結構あります。

 しかも,官公庁は民間のお店と違って,嫌でも行かなければならない場合が多く,官公庁が引っ越してくると人やモノを誘引し,賑わってきて,地価も上昇したりします。すると,またお引越できます。公共施設でも一般住民の利用の多い窓口業務は利便性のよい場所が望ましいかもしれませんが,卸売市場の本来の利用者は一般住民ではありません。地方の市場も古くなると郊外に移転をしているんじゃないでしょうか。そもそも市場のような広い敷地が必要な施設が市街地の真ん中にあるというのは非常にもったいない土地の使い方じゃないでしょうか。

 このような視点から築地市場を眺めると,かなり特異な市場に見えてきます。公設市場の周囲には場外市場が張り付き,築地ブランドが形成され,内外から観光客が押し寄せます。築地ブランドというのも奇妙なブランドです。一般消費者は関サバのような産地は気にしても,取り扱い市場なんか気にしません。従って,一般消費者ではなく買い付け人にとってのブランドということになりますが,これも変です。消費者が風評やブランドを気にするのは分かります。しかし,プロフェッショナルである買い付け人が「気分」に過ぎないブランドや風評を気にするようでは困ると思います。築地ブランドとか言いますが,要するに観光客相手のブランドじゃないでしょうか。

 築地ブランドや築地の伝統などといっているのは,観光客集客のために貴重なのであって,食の流通という公設市場が果たすべき公共目的にはなんの関係もなさそうです。ブランドや伝統は土地と分かちがたく結びついていますから,観光客相手の場外市場は築地に残る選択をしたのではないでしょうか。妥当な選択だと私も思います。 おそらく,銀座の高級店相手の仲卸という仕事も,観光同様の営利商売だと思いますので,公設市場が豊洲に移転しても,築地でなくてはならないのかもしれません。

 築地ブランドにはそれだけのポテンシャルがあるようですから,仲卸で組合を結成し,築地市場跡地を民間相場で借りるか購入して,民間市場を開設すればやって行けのではないでしょうか。それが築地ブランドや築地の伝統ってことじゃないでしょうか。え?今でも債務超過で無理ですって。なぜでしょう?

 築地の土地価格を平米150万円とすると,23万平米なので,土地価格3500億円ほどになります。売却してもよいし,貸しても,年間200億程度の賃料が入ってきます。一方,築地市場の使用料収入は40億円程度です。こういう土地を公設市場として使用するのは実にもったいないですね。場外市場のように民間に活用してもらうのが有効利用というものです。東京卸売市場の収支も改善するんじゃないでしょうか。