水道事業の赤字を不動産投資で補填すべきか

小池都知事は「4000億円の不動産投資」をやめるべき。〜築地ブランドの活用という勘違い〜

 上記リンク記事は次の二つに要約できると思います。

1.不動産投資の素人の東京都が4000億円の不動産投資を成功させる見込みは少ない。

 これは,以前の記事で私が「東京都が民間ノウハウを生かせば,自動車を生産して利益を上げられるかというと,無理です。」と書いたことと同じだと思います。

2.築地のテーマパークを都が運営する必然性はどこにあるのか?

 こちらは,「お父さんが家族相手の商売をして子供から得た売り上げを家計に計上するというのは,意味ありますか。」と同じような疑問だと思います。

 2.については,公共と市場の役割に関わることです。ここでいう「市場」とは卸売市場のことではなく,「公共」の対概念である民間の市場経済のことです。いわゆる「市場の失敗」と言われる市場ではうまく供給できない「公共財」を提供するのが公共の役目と言われています。防衛や消防のように非競合性や排除不可能性の性質を持つ「純粋公共財」のほか,道路インフラのような莫大な資金を要するため,民間では困難な事業も公共が行っていますが,これらの事業は「純粋公共財」とは違い,民間でも利益を出せるようになってくれば,次第に民間市場にシフトしていくのが通常です。明治期には官営であった製鉄事業は完全に民営化していますし,鉄道,郵便,電力なども次第に民営化しています。

 民営化に逆行するように,公共である東京都が不動産投資をする公共的意義はなにかというと,単に市場特会の赤字解消です。この理由は公共から民間にシフトしてきた歴史を考えれば非常に奇妙です。社会全体に必要でも,民間では利益をあげられず提供できないため,公共が提供してきたわけですですから,公共的事業が赤字になるのは,普通です。だから税金が財源の一般会計で行っているわけであって,例外的に別の財源があったり,受益者が限定されるような場合に特別会計としているのです。公共は有効な税金の使い方をするのが役目であって,金を稼ぐのが仕事ではありません。

 公設市場が都民に必要な公共的なものなら,一般会計化してでも行うべきでしょうし,独立採算で成り立つのなら,民間に任して構いません。民間に任せれば不公正な取引や,不公平が生じるというのなら,公正なルールの法的規制だけを公共が行えばよく,事業そのものを行う必要はありません。一般の市場経済も公平な市場ルールを維持するために法的規制が行われています。

 例えば,日本の水道事業は公共で行われていますが,赤字になれば不動産投資で補填すべきなどという珍妙な議論は聞きません。水道事業の不動産投資は,二重三重に奇妙なことが行われていることが分かりやすいと思います。利益を上げられず民間では出来ないがゆえに公共で行っている水道事業を民間でも成り立つ黒字経営にして,なおかつ公共で行うために,民間事業で行われている不動産投資を公共で行うということをしているわけで,何が何だか分かりません。

 公共と市場の役割分担などという理屈はわからないけど,公共が民間的なことをして税金を節約出来るならいいではないかと素朴に考える人もいるかもしれません。しかし,その考え方は,冒頭要約1.の「民間ノウハウ」に関わってうまくいきません。市場経済の原理は専門分業化にあります。生産は得意分野に専門化して,取引交換をして消費したほうが,全体の利益になりますが,その専門分業化は計画的には行うことは困難です。もし可能ならば,計画経済が成功しソ連も繁栄して存続しているはずです。専門分業化は市場が作り出すのだと思います。

 東京都が不動産取引を行うということは,東京都の組織の中に不動産取引の専門部署を作ることを意味しますが,いわゆる市場の競争には参加しませんので,計画的に組織の最適化を行う必要があります。それは失敗するというのが歴史の教訓じゃないでしょうか。