「営業権」という言葉の響きには、居住権と似た「営業する権利」という印象があります。私自身、そう感じましたし、築地市場営業権組合のいう「営業権」もそれに近いです。ところが、調べてみると、随分趣が違います。権利というようなものではなく、会計上の無形固定資産の一つに過ぎません。門外漢ですが、会計上の営業権と、築地市場営業権組合のいう「営業権」の違いについてまとめてみました。
■会計上の営業権とは
営業権を一言で言えば「ブランド価値」のようなものです。ただし、実際に営業譲渡などで有償取得した場合に限り、貸借対照表に計上できますが、自社で築き上げてきたブランドは評価が出来ないため、計上できません。会社を譲渡する場合の価格は、正味の資産である純資産額に加えてブランド価値も加味され、支出を伴いますので、計上できるというわけです。そして、日本の場合、減価償却するのが、国際会計基準との大きな違いです。
■ 会計上の営業権の性質
以上の営業権の意味から、以下に述べるようなことが言えます。
1.負の営業権がある
営業権を評価するのは、営業権を買う側ですので、負の営業権もあり得ます。いわゆるハゲタカファンドの買収のような場合かと思います。
2.営業権の額は、営業譲渡の度に変わる。
営業権は、売り手と買い手の合意で決定するので、以前に自分が取得した額で売れるとは限りません。
3.賃貸の場合、貸主の承諾が必要
次のQAは、賃料滞納者が、賃料の支払督促に対し、みずからの営業権を譲渡して滞納賃料を支払いたいと言ってきたものです。
この例で、賃貸契約を解消しないのなら、「また貸し」になりますので、当然、貸主の承諾が必要です。
4.賃貸の貸主は当事者ではない
前記の例で、また貸しはトラブルの元ですので、賃貸契約を解消し、新しい借り手が、貸主と契約するのが普通です。その際に、新旧借り手の間で、別に、営業権譲渡すればよいわけです。新しい借り手が、営業権を高く評価してくれれば、そこから古い借り手は貸主に滞納賃料を払えます。いずれにせよ、営業権額は古い借り手と新しい借り手の間で決めるもので、貸主は関与しません。賃料は、借り手のブランド価値とは無関係ですから。
5.営業権額は、個別の事業者ごとに異なる。
いうまでもないでしょう。
■ 東京魚市場卸協同組合が行っていた営業権譲渡の仲介
築地市場では、業者間で「鑑札」の売買が行われています。いわゆる「営業許可」は東京都が発行するものですから、業者が勝手に売り買いできません。従って、この「鑑札」とは、業者が行ったテナント設備と「営業権」と考えれば、納得できます。これには、東京都は関与しないと思います。このうち、「営業権」の譲渡について、2014年に東京魚市場卸協同組合が仲介しています。仲介ですから、あくまで、主体は「営業権」を売り買いする業者です。
■ 築地市場営業権組合が行う「営業権」交渉とは?
今までの説明から明らかなように、会計上の営業権も、各事業者が持っています。ただ冒頭に述べたように、権利ではなく価値であることも、今までの説明で明らかでしょう。その価値は営業権譲渡の時に当事者同士で決めるものなので、東京魚市場卸協同組合は、仲介をするだけでした。
これに対して築地市場営業権組合のいう「営業権」とは、次のような「権利」のようです。
1.移転の権限を含む
2.財産権の一種、特許権や著作権と同じ性質
3.行政機関から法令に基づく特許や許認可を受けて営業している場合に主張できる
4.長年築き上げた名声や信用に基づく『のれん』がある場合に主張できる。
5.交渉相手は東京都
6.場外業者も持つ権利
会計上の営業権とは全く違います。なんとなく、主張したいことはわかりますが、営業権は誰かが保証してくれるものじゃありませんね。