コンクリート床の効果

 豊洲市場の盛り土が無くても,建物には床コンクリートがあるから地上は安全だと私は考えています。が,残念ながらコンクリートの効果がはっきりしません。はっきりしないのは,計算するまでもないことなので,誰も計算していないのだと思うのですが,大雑把にでも見積もれないかと感じていました。

 そこで,改めて専門家会議の資料の計算式を眺めていたら,以外にも簡単に計算出来そうなことがわかってきました。ただし,この分野は私の専門外で,あの計算式は土壌には適用できても,コンクリートには使えない式かもしれません。ということを忘れないように,あくまで参考として,計算してみました。そしたら,意外なことが分かってきました。専門家には常識かもしれませんが。

土壌中からの汚染空気の曝露による影響の評価

 例の式は液体の溶融物質濃度とそれに接する気体の物質濃度の関係を表すヘンリーの平衡式を修正したものです。ヘンリーの式との違いは,液相と気相の間に土壌が挟まっている状態をモデル化しているところです。土壌は下部の毛管帯と上部の通気帯の2層で,それぞれの有効拡散係数を求めて,それから大気中濃度を算出するようになっています。

 要点は,土壌の有効拡散係数の計算式では,土壌中の空隙の空気と水を通じて物質が拡散していく状態を考えていて,固体である土粒子の性質には無関係であることです。つまり,空気と水の拡散係数,および土壌中の空気と水の比率を用いて計算しているだけです。ということは,コンクリート中の空隙とその中の空気と水の比率を仮定すれば,土壌と全く同様に計算できるということになります。

 仮定が必要な変数は次の3つだけです。

θc:コンクリートの間隙率
θac:コンクリートの気相率
θwc:コンクリートの体積含水率

θcについては,0.05とします。*1
θacとθwcについては,通気帯の土壌の空気と水と同じ割合にします。
θac=0.05×0.110/0.487=0.011 θwc=0.05×0.377/0.487=0.039 

 これらを用いて,コンクリートの有効拡散係数Dcとでもいえる値を計算してみると,

Dc=1.09×10^-5 cm2/s と,毛管帯の盛り土の有効拡散係数 1.82×10^-5 cm2/s とさほど変わりません。空隙率が0.487から,0.05に随分小さくなっているにも拘わらずです。あれれと思って,式をよく見たら理由がわかりました。盛り土の毛管帯の空隙の92%が水でほぼ飽和しているのに対して,コンクリートは78%と通気帯と同じにしためです。有効拡散係数の計算にはこの値が結構効いてきます。しかし,空隙率は殆ど影響しません。コンクリートのように密実に詰まった材料は適用範囲外なのかもしれません。

 そこで,コンクリートの場合も盛り土の毛管帯の空気,水の比率と同じにすると,
θac=0.05×0.035/0.487=0.004 θwc=0.05×0.452/0.487=0.046 となり,
Dc=9.73×10^-7 cm2/s とぐっと小さくなりました。

 二つのケースのDcを用いて,コンクリート床50cm,空気層400cm(有効拡散係数0.088),地下水中ベンゼン濃度1mg/Lの時の地上空気中濃度を算出すると,次の通りです。乾燥状態では,盛り土0.0012mg/㎥より大きくなっているのは,空気層が400cmあるためですが,大気環境基準よりは小さくなります。

 乾燥状態 0.0018mg/㎥ <0.003(大気環境基準)
 湿潤状態 0.0002mg/㎥ <0.003(大気環境基準)

 あくまで,素人の数字遊びに過ぎないながらも,計算してみて感じたことは,450cmの盛り土の遮蔽効果のほとんどは,下部の100cm毛管帯の水の効果だということです。上部の350cmの通気帯の盛り土は大して役に立っていません。そして,毛管帯の水は砕石層以下の汚染水が毛管現象で上昇してきたものだとすると,なんだか奇妙です。汚染水の上昇は認められないと乾燥状態にしてしまうと,遮蔽効果が低下して地上は環境基準を超えます。いや,汚染物質は砕石層より上には移動しないというのなら,地下ピットの下部100cm程に水を張っておいてもいいことになります。

 また,計算に反映されていないことに,盛り土と違ってコンクリートの空隙は独立気泡が多いことがあります。へーベルハウスでおなじみのALCコンクリートは独立気泡による断熱性を売りにしているように,独立気泡はガスの流通経路になりません。また,コンクリートの「空気/水」比率は通気帯盛り土と同じとしましたが,コンクリートは非常に乾燥しにくいです。独立気泡内の水(独立水泡というべきか)も多いからです。印象ですが,市場の床は結構ウェットな状態という気もしますが,どうでしょう。

*1:セメントペースト中の細孔量0.09cc/g,セメントペースト比重1.6より,セメントペースト中の細孔率0.09×1.6=0.15,コンクリート中の骨材率70%より,コンクリート中の間隙率0.15×0.3=0.05