豊洲市場の食の安全?

 豊洲市場盛土騒動では,食の安全が懸念されています。移転の遅れて様々な被害が発生していますが,それよりも安全第一というわけです。ただ,どのような危険があるのか定量的に指摘した例は見たことがありません。ところが,盛土がないことによる危険は明確に,かつ簡単に計算できます。盛土有で安全を確認した計算を盛土無で行えばよいだけです。その結果,ベンゼンまみれのマグロが出荷されると分かれば,だれも豊洲移転延期に反対しないでしょう。

 専門家会議の報告書には地下水の有害物質が毛管帯(盛土)を通過してどの程度の地上の空気中濃度になるか計算してあります。さらに,その環境中に置かれた食品の水分中の濃度も計算されています。空気中濃度は大気環境基準値など,食品中濃度は飲料水の水質基準と比較して評価されています。

7.土壌中からの汚染空気の曝露による影響の評価
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/senmonkakaigi/houkokusho/houkokusho_07.pdf

 報告の要旨は次の通りです。地下水の汚染濃度をベンゼンの調査の最高濃度100mg/Lとして計算すれば,ベンゼンの地上空気中濃度は0.12mg/m3となり,は環境基準値0.003mg/m3を上回ります。そこで,地下水の汚染濃度が1.1mg/Lになるように地下水管理を行うことで,食品の濃度は水質基準の1/1000以下にするとしています。

 つまり,空気中の濃度を環境基準以下にすれば,食品中濃度は,水質基準の1/1000以下になるわけで,まあ常識的な結果だと思います。生涯生活しても健康影響がないような環境基準の空気中に置かれた食品に付着する量はしれています。

 さて,盛土なし食の安全については以上の計算を盛土なしでやり直せばよいだけですから,簡単です。私でも出来そうなのでやってみようと思いました。ただ,専門家委員会の計算では,建物のコンクリート床の遮蔽効果は無視しています。なぜかというと,そもそも汚染土壌対策では,10センチ以上のコンクリートで被覆する対策と,覆土(盛土)は別の対策で両方行うことはあまりないようなのです。つまり,盛土の土は空隙があり,そこを有害物質が透過しますので,ある程度の厚さが必要で,その計算をします。それに対してコンクリート床は10センチ以上あれば十分と考え,そのような計算をしないらしいのです。コンクリート床もひび割れが入りますので,完全に遮蔽できるわけではありませんが,透過量の計算に必要な拡散係数の類が用意されていません。

 どうも,盛土は,コンクリート床のある建物部分では不要で,屋外の対策のようなのですが,豊洲市場では,建物下も行うと宣言したのでしなければならないようです。そして床の効果は余力として無視してあります。床は最低でも15センチはあるでしょうから,コンクリートが土より30(450/15)倍,有害物質を通しにくければ十分で,軽くそれ以上ありそうですが,データがありません。

 仕方ないので,コンクリート床なしで,盛土を4.5mから1mにした場合の地上のベンゼン濃度を計算してみると,地下水汚染最高濃度100mg/Lの場合で立米あたり0.15mgとなりました。4.5mでは0.12mgなので意外にもそれほど増えません。盛土厚さ15センチでも,立米あたり0.99mgです。盛土がある場合と同様に地下水管理でこれを減らせば,食品中の濃度も8.25(0.99/0.12)倍になりますが,もともと水質基準値の1/1000以下でしたので,全然問題ありません。労働環境には影響しますが,食の安全には影響しそうにありません。

 ところで,専門家委員会の座長の発言も食の安全にはまったく触れていません。というか,座長は食の安全の問題なんかではないことを最もよく知る人だから言わないのだと思います。座長の発言を私なりに解釈すると「専門家委員会の提言を無視された」,「東京都は約束を果たしていない」ということだけじゃないでしょうか。食の安全ではなくて,あくまで信義の問題,手続きの問題だと言っているように思えます。もちろんそれも大事ですが,諸々の諸課題のなかでの優先度は違ってきます。