自己検証報告書の捏造?

 豊洲盛土問題の「自己検証報告書」の誤りを東京都が認めました。そして,ホームページの報告書該当部分に,今後修正がある旨のコメントが加えられました。しかし,報告書添付の第9回技術会議資料はそのままです。この資料に「技術会議が独自に提案した事項」として「汚染地下水の浄化ができるように建物下作業空間を確保する必要がある」と記載されています。

 報道では自己検証チームが技術会議資料を捏造したと疑っていましたが,今のところ,そういうことはなかったことになります。代りに,元の技術会議資料の方が捏造である疑いが浮上したのでしょうか。捏造資料とはいえ,技術会議の委員が認めたものであるので,事務局が勝手に変えることはできず,そのままになっているのでしょうか。この状態は,東京都の幹部が地下空間の存在を知らずに,決済してしまったことと似ていて,技術会議の委員が資料の中身を知らずに,認めたということで,委員の責任問題に発展するのでしょうか。

 そういう風に話が進展すれば,メディアは喜ぶかもしれませんが,私はそうは思いません。「捏造」疑惑は以下に述べるようなことだというのは,行政の委員会の実態をしっていれば,誰も想像することだと思いますが,知らない人もいるかもしれませんので説明します。 

 行政組織の委員会の資料や報告書を委員が執筆することは普通はありません。案文は事務局が作成して会議の資料として提出し,委員が目を通して審議・了解すれば,それが委員会の報告書となります。稀に,委員自ら執筆する報告書もありますが,その場合は,執筆分担が最初に記載してあります。学会の学術的な報告書もこのタイプが多いかと思います。個人プレーの集積という趣の報告書ですが,行政組織の委員会の報告書は,原案を事務局が作成しているので,執筆分担は書けません。

 つまり,「技術会議が独自に提案した事項」といっても,原案は事務局が作成したものです。もちろん,原案に委員はしっかりと目を通して,修正が必要であれば意見を述べます。自分の信用にかかわりますからね。ところが,第9回会議録にはこの資料の訂正を求める意見は見当たりません。もし,建物下の作業空間に重大な問題があるという認識が委員にあれば,何らかのコメントがあったはずですが,ないということは,特に,問題も疑問も関心もさしてなかったと想像できます。

 問題があれば,コメントがあるはずというのは,同じ地下利用でも,駐車場やターレット置き場としての利用については,却下するという記録が残っています。理由は,地下空間は空気が汚染される可能性があるので,常時人が使う空間には使えないというものでした。これに対して,モニタリングと除染作業空間は通常は人がいませんし,汚染をモニタリングしたり除染する空間が汚染されてる可能性があるから駄目という理屈は成り立ちませんから,委員がコメントしないのも当然です。

 さらに「技術会議が独自に提案した事項」の意味するところは,この報告書の内容を考えればわかります。この報告書では土壌汚染対策の公募を行い,公募提案の評価を行っているのです。つまり,公募提案ではなく,技術会議の提案という意味なのです。事務局ではなく,委員が言い出しっぺという意味ではないと思います。前述のように,事務局が原案を作っても委員が認めれば技術会議の提案ということになるのです。

 最終的な報告書には,「技術会議が独自に提案した事項」はなくなっていますので,数年前のことでもあり,委員も途中経過の資料についてはあまり覚えていないのでしょう。また,自己検証チームも同様かと思います。凡ミスかと思います。

 自己検証報告書に誤りがあったのは,このような事情によるもので,自己検証チームも技術会議事務局も捏造したという証拠はないと思います。