豊洲市場の陰謀?

豊洲盛り土問題、「責任者」を特定 都、約10人認定か
http://www.asahi.com/articles/ASJBY313QJBYUTIL002.html

東京都の豊洲市場江東区)の主な施設下に盛り土がなかった問題で、都が、当時の中央卸売市場長や部長級職員ら約10人を、組織決定に関わった「責任者」と特定する内容で検証の最終調整をしていることが29日、分かった。

 通常の組織の「責任者」というのは,事業を行う前に決まっています。騒動になった後で,調整して「お前が責任者だから,よろしく」と言われる東京都は珍しいところです。

 また,部長級ら約10人というのも異例です。責任の部が10とは多すぎです。だれが決定するのか曖昧でそれこそ無責任体制です。関係部署が多数に渡る大プロジェクトもありますが,そういう場合は,部長を統括する局長とか,副知事,あるいは知事の責任となるんじゃないでしょうか。いや,知事は市場移転全体を統括する立場であって,盛土実施という細部のことは部下に任せているというのなら,責任部長は一人にします,普通は。10人というのは異例で異様です。

 でも,私は東京都がそこまで異様な組織とは思えません。異様なのは小池知事の移転延期以降の事態じゃないでしょうか。土壌汚染対策として盛土工事実施をした部署の部長が責任者でしょう。そして,盛土をしないという変更決定をした認識は全くなかったと思います。ちゃんとしたつもりだったんじゃないでしょうか。建物位置は盛土を行わない発注図面になっていて,実施結果報告もそうなっていました。技術会議でも報告されています。この一連の流れでだれも疑問を感じていません。一方,施設が完成して,小池知事の延期判断で世間が騒ぎだしてから,専門家会議の座長は汚染地下水の被覆効果の計算の前提が変わってしまう変更であると述べています。

 このような推移から,犯人捜しではなく,反省点を探すとすれば,専門家会議と都の実施部隊とのコミュニケーション不足でしょう。都が専門家会議に方針変更報告しなかったことが一方的に悪いというのが報道などの見方ですが,それほど単純ではなく,双方向のコミュニケーションの問題だと思います。

 都が方針変更を隠していたような見方をされていますが,会議資料にも設計図書にも盛土工事発注図にも工事完了報告書にも建築工事設計図書にも明記されていて,とても隠していたという状況ではありません。前述のように報告しなかったのは方針変更したという意識が誰にもなかったからでしょう。ということは方針変更したという意識がなかった原因が重要です。

 私見では専門家会議が方針を正確に伝えなかったのが発端で,一番の原因です。盛土は敷地全面に行い,盛土内には一切の構築物は設置してはいけないと伝えるべきでした。そんなことは当然だろうというのは,思い込みです。通常の建築では,地盤面より下には基礎や杭が必須です。側溝,桝や地下タンク,鋼管杭などの中空の構築物も無数に存在します。建築関係者の常識からすればある高さまで盛土を行うというのは,設計地盤面をその高さに設定するという意味に過ぎませんから,誤解を防ぐには正確に伝える必要があります。

 しかし,専門家会議のメンバーの方もそういう建築の常識は知らないでしょうし,都の建設(土木,建築)部門は土壌汚染対策の常識を知らないでしょう。そうした場合は,一方的な指示とその指示に従う関係ではなくて,一緒になって話し合う必要があります。これは,クライアントと建築の設計者の関係と同じです。クライアントが一方的に設計与条件を伝えて,あとは設計者に任せるのではまともな建築はできません。クライアントと設計者は建物完成あるいは完成後の維持管理まで話し合いを続け,確認を行う必要があります。

 豊洲市場の場合,それが不可能でした。なぜなら専門家会議は早々に解散してしまったからです。後にはあいまいなポンチ絵の盛土概念図が残っているだけです。もし,専門家会議が存続し,情報交換が行われていたのなら,地下空間の再検証が必要という指摘も出来たと思います。ただ,技術会議は存続して報告も受けてたのに指摘できませんでしたので,専門家会議もできたかどうか確証はありませんけどね。

 以上のように,有識者会議を含む関係者のコミュニケーション不足が反省すべき点の一つですが,それより重要な反省点があります。それは,コミュニケーション不足によって,重大な事故や欠陥が生じたわけではないのに,あたかも生じたという思い込みで事業の進行が大きく阻害されて,莫大な費用を生じていることです。コミュニケーション不足によって,実際に起こったことは,重大な事故や欠陥が生じる恐れです。恐れですから,本当に生じるかどうかさっさと検証すべきところを,犯人捜しに時間をかけて,無駄な費用が発生し続けています。専門家会議の座長も検証は必要だが,施設を使用しながらの検証で問題ない程度の汚染だと言っているのにかかわらずです。

 なんというか,利権構造に陰謀,それらに起因する大きな犯罪,そしてそれらの犯人捜しを好きな人が多いなあというのが感想です。盛土を一部やめることで,利権構造にどのような利益をもたらすかを具体的に指摘したものは一切ありません。すべて気分的なものや,明白な勘違いばかりです。

 東野圭吾の古い作品に「パラレルワールド・ラブストーリー」があります。巨大な陰謀を匂わす展開が続くミステリーですが,結末は違います。ネタバレになるのでこれでやめときます。