「隣の神保町駅で対応しようと思った」わけ ー いろんな思いこみ

 (前記事から続く)

 読売記事の車掌さんのコメント「隣の神保町駅で対応しようと思った」については,少し誤解していました。車掌さんはベビーカーがドアに挟まっていることに気づいておらず,非常ボタンへの対応を隣の駅でしようと思ったのですね。それにしても「緊急停止」の非常ボタンですから停止は当然で異常な印象は受けます。

 しかし,次の記事を読むと,今回は停止すべきだったとしても,常に停止は当然とも言えないようです。

「一歩間違えば大惨事」メトロ乳母車事故 新米車掌が「非常停止をためらった」ワケ  J-CASTニュース

東京メトロの規定によると、駅と駅の間で車内のボタンが押された場合、すぐに止まるのではなく次の駅まで走ることになっている。ただ、今回は、電車が駅のホームを完全に離れたわけではないため、車掌が緊急停止させるべきケースだった。ホームのボタンが押された場合も、マニュアルに従えば緊急停止させるべきだった。

http://www.j-cast.com/2016/04/05263348.html?p=2

 確かにこういう規定があれば,気が動転した状態では誤判断もありそうです。非常ボタンは,異常事態を乗務員に知らせるもので,停止するかどうかは乗務員の判断なのですね。例えば,乗客が倒れてしまい,近くにいた人が非常ボタンを押すことがあります。その場合,乗務員がスピーカーを通じて状況を尋ねて判断するようです。このような場合は次の駅で対応するのが正解でしょう。

電車の非常停止ボタンを押してみた! なつみかん日記
http://natsunimikan.seesaa.net/article/352553688.html

 また,現実問題として,非常停止ボタンが頻繁に押されて,電車の運行に支障を来している状況もあるようです。非常ボタンが押されたら,即停止すべきかどうかは難しい判断です。

非常停止ボタンの使い方
羹に懲りて膾を吹いていないか
http://www.geocities.jp/straphangerseye/transport/joumuin/yokushi.html

 今回の事故の場合,車掌さんが非常ボタンを押した人に事情を尋ねて停止させる時間があったのかも疑問です。また,参照記事にも書いて有るとおり,通話可能ではないタイプもあるので,その場合は先ず状況把握すべきで,やみくもに停止させるべきとは言えないでしょう。

 私は,事故が起こってしまった後の報道を見て,ベビーカーがドアに挟まっていたことを既に知っており,車掌さんも知っていると思い込んでいました。なので,停止は当然と感じたわけです。しかし,実際には車掌さんは状況が分かっていませんでした。早とちりは私だけではないようで,例えば,次のブログのような感想があります。

東京メトロ九段下駅のベビーカー事故で父親が批判される理由が理解できない

「気が動転して緊急停止をためらってしまった」なんて、ひき逃げに近い心理状況だと思います。
http://enter101.hatenablog.com/entry/2016/04/05/183415

 「ひき逃げに近い心理状況」というのは,ある意味で正しい指摘です。だから論外ではなくて,誰だってひき逃げする可能性があると考えるべきでしょう。事故が起こってしまった後では,後知恵で「ああすべきだった」といえますが,実際の現場で情報もない中で咄嗟に正しい判断は難しいだろうなと思います。特に今回の事故の車掌さんは「人を轢いた」とは気づいていなかったようですから。