エスカレーターを歩く心理

 「エスカレーターは歩かないで手すりを掴んで乗りましょう」。これは随分前から言われています。6年前に私も関連の記事「エスカレーターは階段ではない」を書きました。それから状況はあまりかわりませんね。

 変わらないのは何故でしょうか。一つは、安全の問題ではなくて、マナーの問題と考えている人が多いからじゃないですかね。数年前までは多くの鉄道会社が「あくまでもマナーの問題。『歩くな』とは強制できない」なんて言ってましたからね。

 最近は、安全の問題と認識されるようになってきたようですが、依然として歩く人はあまり減りません。その原因を考えていて、一般的な事故対策と同じ問題がありそうだと気づきました。事故対策では「安全意識の向上」を唱えてもあまり効果がありませんが、エスカレーターの歩行問題も「利用者の意識向上」を唱えているだけなんですね。

 事故の原因になる不安全行動を止めさせるには、何故そのような行動をするのか理由を把握するのが第一歩です。エスカレーターで歩く理由は考えるまでもなく「急いでいるから」と思ってしまいます。ところが、歩いている人をよくよく観察すると、それほど急いでいるようではないのです。私の観察の範囲では、以下の様な状況です。

・最も一般的な急ぐ状況としては電車に乗り遅れそうな場合がある。その場合、ホームに上がるエスカレーターの方が、下りエスカレーターより歩く人が多いはずだが実際は逆。朝の登り歩行側はガラガラで、夕方の下り歩行側はそこそこ混んでいる。

・急いでいるなら、エスカレーターに乗る前や、降りた後も急いで歩くか走るはずだが、そんな人は殆ど見かけない。

・私も電車が発車しそうだと、急ぎたくなるが、別にその電車じゃなくても遅刻するわけじゃない。終電車を除き、数分待って次の電車でも何の支障もない。

 つまり、急がなければならない切実な理由が有るのではなく、止まっているのはイライラするというだけだろうと思えるんですね。私もジッとしているのはストレスを感じますから。あくまで、私の推測に過ぎませんが、歩く心理について調べたものもあるようです。ソースは見つけられませんでしたが。

エスカレーターで歩くの禁止っていつからそうだった!?事故事例も調べた結果「実は非効率で危険!」

駅のエスカレーターの速度は毎分30mで時速1.8kmです。
混雑状況にもよりますが、駅のホームを歩く速度は時速3kmと言われていますので、エスカレーターを時速3kmにすれば歩かなくなると思います。

何故歩くかというと、急いでるわけではなく、時速3kmから時速1.8kmになることの不快感やストレスを本能的に避けるために無意識に歩くからだと言われています。

  また、早く移動したいのは急ぐからでなく競争心からと示したデモンストレーションもあるようです。

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 高速道路で前をゆっくり走る車がいると追い越したくなることや、信号待ちでイライラするのも同じ心理でしょう。別に急ぐ理由がなくてもストレスが溜まります。

 このストレスは、他の人にも圧力となります。エスカレーターの歩行側で立ち止まって、後ろからの歩きたいストレスを抱え込んでいる集団をせき止めるには、強靭な心臓が必要です。歩かない側に移るスペースがない場合、歩きたくなくても歩かざるをえない心理的圧力を感じます。

 このようなストレスが原因なら、歩行の危険性や輸送効率の悪さを訴えても効果は薄いです。歩く理由は理屈ではなくて、本能的というか無意識の行動だからです。こういいう場合の有効な対策は、一般的な事故対策同様に「安全設備」つまり、物理的に歩けないようにしてしまうコロンブスの卵的対策です。例えば蹴上を高くして歩けないようにすればよいですが、まあ非現実的です。

 ならばどうするかというと、歩く方の心理的ストレスを大きくする方法があります。実際にコミケ会場などで行われているように、係員が拡声器で「歩かないでください」と呼びかければ、それに逆らってまで歩く心理的ストレスの方が大きいでしょう。あるいは、エスカレーターのスピードを速くして、歩かないストレスを減らし、かつ歩く危険を実感させ歩くストレスを増やすという方法もあります。しかし、これもあまり現実的ではないでしょう。

 ということで、あまりいいアイデアは浮かびません。せいぜい「歩くな」という表示や掲示を目立つようにするぐらいでしょうか。表示や掲示では歩きたいストレスを減らすことは出来ませんが、歩きたいストレス集団に抵抗しやすくは、なるかもしれません。現状ではそれすらない駅が多いですけど、デカデカと表示してくれれば私も立ち止まりやすくなるんですけどね。