疫学における「原因」とは Interdiciplinary
http://interdisciplinary.hateblo.jp/entry/2016/01/18/213919
TAKESANさんの示す文献によると,疫学における原因は4つに分類出来るそうです。初めて知りました。
必要十分な原因 necessary and sufficient cause
必要不十分な原因 necessary but not sufficient cause
不必要十分な原因 not necessary but sufficient cause
不必要不十分な原因 not necessary and not sufficient cause
一見すると,数学でいうところの「必要十分条件」と紛らわしいですが,説明を読んでみると大きく違いますね。数学の「条件」はベン図で表すと,下に示す図の上段のとおりです。
一方,疫学の「原因」では,例えば「必要十分な原因」とは「帰結を引き起こすのに必要な原因であり,それ自体で帰結を引き起こすことができる」と説明されています。「必要な原因」とはそれが無ければ帰結を引き起こさないもので,「十分な原因」とはそれだけで帰結を引き起こすことが出来るものです。ただし,「帰結を引き起こすことが出来る」であって,「必ず帰結を引き起こす」ではないので,「十分な原因」は「十分条件」でも「必要条件」でもありません。現実的には,程度に関わらず必ず帰結を引き起こす原因は有りそうもないので,数学的な十分条件の原因はないといえます。
疫学における「原因」もベン図にしてみました。数学的な「条件」との関係は図を見ていただければ分かると思います。「必要十分な原因」と「必要不十分な原因」は数学的には「必要条件」であり,「不必要十分な原因」と「不必要不十分な原因」は必要条件でも十分条件でもありません。疫学の「原因」では,原因と帰結だけの関係ではなく,他の原因との関係で分類されています。
以上のことを踏まえて,ここから本論です。TAKESANさんの記事のリンク先の「休眠妙薬」は支離滅裂で,意味がよく分からないところがありますが,なんとなく次の様な事を言いたいようです。
1.タバコを吸わなくてもがんになるなら,タバコはがんの原因ではない。
2.タバコを吸ってもがんにならないこともあるのなら,タバコはがんの原因ではない。
結局,「原因」と言えるのは,必要十分条件といえるものだけという主張になってしまっています。「必要十分条件」であって「必要十分な原因」ではありません。前述のとおり,「必要十分な原因」は現実に存在しますが,必要十分条件の原因は存在しませんので,現実的な原因は一切存在しないことになってしまいます。
また,「タバコは「咽頭がんの原因」という集団に含まれるが,「咽頭がんの原因はタバコである」は間違いである」という,分けの分からない記述もあります。原因の集団に含まれるなら原因に決まっていますが,なぜこんなにも,支離滅裂なのでしょうか。
おそらく,「休眠妙薬」のブログ主さんは,タバコやHPVはがんの原因として重要ではなく,対策はそれほど必要ではないというもっと穏やかな主張をしたかったのではないでしょうか。しかし,そのような主張をするためには,原因としての重要性について定量的な判断をしなければなりません。判断の材料として膨大なデータも読み解かねばなりません。専門家でなければきびしいものがあります。そこで,単純な論理で原因ではないと切り捨ててしまおうとしたのではないでしょうか。面倒な定量的判断などすっ飛ばして,高校レベルの数学の論理で白黒が付けられる問題だと。そんな論理も理解出来ないNATROMさんはトンデモ医師であると。
現実には,単純な論理で割り切れる問題は少なく,定量的に,また多くの要因を総合的に判断しなければならない悩ましい問題がほとんどだと思います。特に医療に関することは。