たばこの既得権

 酒も飲み過ぎれば健康に悪いし,依存性もあります。傍迷惑な酒乱もいますし,飲酒運転して人を死に至らしめる不届き者もいます。にもかかわらず,たばこばかり批判される,とぼやく愛煙家がいます。気持ちは分からないでもありませんが,たばこと酒では大きな違いが二つほどあります。

 一つは,健康への影響の程度の違いです。これに付いてはあちこちで説明されています。例えば,下のリンク先が要領よくまとめてあります。

飲酒、喫煙と循環器病
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/general/pamph32.html

 酒の場合,1日に日本酒1合程度までならむしろ死亡率は下がり,健康への悪影響はほとんど有りません。これに対して,たばこは一服でもかなりの悪影響があります。

 他者への迷惑という点では,受動喫煙と飲酒運転などの比較になります。性質が異なるので比べるのが難しいですが,死因の割合の統計が参考になります。

死因順位1)(第5位まで)別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合2)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii09/deth8.html

 統計では,死因の上位はがんなどの病気であり,不慮の事故は5位までに入っていません。不慮の事故死はがん死の1割程度です。そして,飲酒運転による被害は不慮の事故の一部に過ぎません。飲酒運転の被害の印象は強烈ですが,がん死に比べれば,相対的に影響は少ないと言えます。

 程度を考えなければ,酒もたばこも同じと言えてしまいますが,定量的にみれば随分違います。

 さて,二つめの違いはたばこの既得権で,他者への迷惑にかかわります。他の趣味嗜好品に比べてたばこは異常ともいえる既得権を持っていました。趣味嗜好は個人的なものですから,公共空間や仕事の場では通常,制限されます。路上でカラオケをしたり,勤務時間中に気分転換にお酒を一杯嗜むなどということは許されません。福利厚生のため,防音設備の整ったカラオケルームやバーを会社が用意してくれることもありますが,勤務時間には使えません。一方,喫煙室は仕事中に使えます。個人的な趣味嗜好は原則,アフターファイブにそれなりの場所や自宅で自費で行うものです。しかし,たばこは例外でした。

 それでも,不快な臭いや迷惑な騒音のないお茶の一杯程度は勤務時間中でも許されます。しかし,たばこは実に臭いですし,咳き込むこともあります。これほど迷惑なのに優遇されているものは他には思いつきません。出張土産のクッキー程度なら職場のおやつで私も食べますが,クサヤの干物は遠慮します。たばこに受動喫煙の害がなくても十分迷惑です。

 たばこばかり批判されていると言いますが逆です。今までたばこが優遇されすぎていたのです。それを酒並の扱いにしようと言うだけなのです。公徳心も強い意志も持つ人に,そんな簡単なことも出来なくさせてしまうのが,たばこという薬物の恐ろしさです。