逆宝くじ版 過剰診断と偽陽性

 前の記事には、過剰診断を偽陽性と誤解させる記述があるとの貴重な指摘がありました。両者の違いについては、例えば日本医師会の説明が分かり安いです。

がん検診のメリットとデメリット|知っておきたいがん検診 - 日本医師会

偽陽性」とは、検診でがんの疑いがと判定されて精密検査を行っても、がんが発見されないことを指します。 
「過剰診断」とは、生命を脅かさないがんを発見することです。

 「生命を脅かさないがん」って良性腫瘍であって、がんじゃないような気もしますが、進行が遅く症状が発現する前に、寿命が尽きてしまうという説明なので、がんであるという診断はできるのでしょう。それに対して偽陽性はがんでないものをがんと診断してしまうもので、明確に違うといわれればそんな気もします。

 しかし、極端な場合を考え出すと、微妙な感じになってきます。もし、医学が非常に発達して、特定の患者さんについて発症までの期間が正確に予測できるようになれば、発症時期が寿命より先のものをがんと定義することが可能になり、発症時期が寿命より後のものをがんと診断すれば、それは偽陽性と言えることになります。このような状況では、過剰診断と偽陽性の区別はあいまいになってきます。

 もちろん現実には発症時期は正確には予測できないので、おそらく、診断時点では診断がつかないところが、要点なのでしょう。つまり、「生命を脅かさない」ということよりも、「生命を脅かすかどうか分からない」ことがポイントという気がします。偽陽性は診断時点で精密検査をすればほぼ分かりますが、それに対して過剰診断は死ぬまで分かりません。言い換えれば、がんか否かという問題へのがんであるという誤答が偽陽性であり、寿命前に発症するがんか否かという問題に対する誤答が過剰診断偽陽性で、ここまでは同じようなものです。ただし、過剰診断は結果がでるまで分からない点が偽陽性との決定的な違いなのでしょう。

 技術の向上で精密検査の精度が上がれば、偽陽性の判断はより正確にできるようになります。同じように、寿命前に発症するかどうかの判断も多少は良くできるようになるのではないでしょうか。したがって、前の記事で、「もし、当選確率を1/10程度、つまり期待値マイナス100万円程度の精度で診断できるのであれば、その場合は20万円の「治療」をした方がよいという判断が出来ます。」と書いたのは、誤解を招きそうではありますが、間違いともいえないと思います。ただし、それは過剰診断かどうかを判断できるという意味ではありません。判断できないというのが過剰診断の定義とまでは言いませんが、実際はそれに近いと思います。

 さて、通常の宝くじは、購入時点では当たりくじはまだ決まっていません。逆宝くじも同じだとすれば、購入時点で当たりくじと予測して結果的に外れくじだった場合が過剰診断に相当するんじゃないでしょうか。一方、購入時点で確定している当たりくじを推定して、外れた場合が偽陽性という感じでしょうか。後者の場合は、当たりくじかどうかは購入時点で確定していて、推測が難しいだけです。しかし、前者では確定していない当たりくじの将来予測なので、よりあやふやです。

 ところで、1次検診の偽陽性は精密診断で分かります。しかし、精密診断にも偽陽性はあり、それはわかりません。完全な診断法がない限り、寿命がくるまで診断の正否はわかりませんので、過剰診断との違いも微妙になってくるような気もします。分かり安い例えを書くつもりが、かえってモヤモヤした話になりました。