地震調査委員会の発表に一喜一憂しても仕方ない

中国地域、30年間にM6・8超の確率50%
http://www.yomiuri.co.jp/science/20160701-OYT1T50119.html?from=ytop_ylist

政府の地震調査委員会は1日、中国地域のどこかで今後30年間に、活断層によってマグニチュード(M)6・8以上の地震が起きる確率は50%とする計算結果を発表した。

 「あれれ?」と思いましたよ。なぜかというと,地震調査委員会の上部組織である地震調査研究推進本部は、発生確率を数値で示してきたこれまでの地震予測の発表方法を見直す方針を決めた,とつい最近報道されたばかりですから。一方,下部組織の地震調査委員会は,これまで通り発生確率で発表するんだ,と。方針変更の理由は,確率の数値が小さいと,地震は少ないと誤解されるためでしたが,今回の発表の中国地方東部は2〜3%です。これは地震は少ないと誤解されないのでしょうか。心配になります。

 もっとも,「非常に高い確率」である50%は中国地方全体です。ちなみに,2013年の九州は30〜42%,2015年の関東は50〜60%だったそうですから,特別中国地方が高いというわけでもなさそうです。さらに,2013年から2016年の発表で変化があるわけですが,30年間の予測で数年ごとに微修正する意味があるのか私には分かりません。
 
 おそらく,西日本全体なら70%程度,日本全体ならほぼ100%になると思います。確率の数値が小さいと,地震は少ないと誤解されるのを恐れるならば,日本全体で100%と言っとけばよいのではないでしょうか。ただ,住民にとって必要なのは,自分の住む狭い地域の予測です。しかし,狭い地域の確率はどうしたって小さくなりますから,「誤解される」恐れがあります。結局,住民にとって予測はあまり意味がないということでしょう。実際のところ,普段言われている地震対策以上の何をすればよいか皆目わかりません。

 もう一点,興味深いことがあります。活断層の少ない中国地方北部の方が確率が40%と高いのです。これは1923年以降の地震の回数が多いためです。つまり,活断層というのは分かっている活断層という意味なのです。地下深くにも,海底の下にも活断層はあるでしょうか,それらについてはよくわからないわけです。

 他方,わかっている活断層地震履歴も少ない中国地方東部は2〜3%と小さい確率になっています。しかし,地震履歴は1923年以降の100年にも満たない期間のものです。だから,2〜3%という数字を地震が少ないと思うのは誤解だと言っているのではないでしょうか。ただそれを言うなら,北部は40%と予測されていますが,今後100年程度の期間なら発生0回かもしれません。東部の0回が信頼できないなら,北部の69回も信頼できません。30年は100年より短いのでもっと信頼できません。結局,地震調査委員会は,活断層も過去の地震履歴もあまりあてに出来ないと言っているのではないでしょうか。「確率の数値が小さいと,地震は少ないと誤解される」の真意は,「確率の数値の小ささには地震が少ないとは違う正しい意味がある」ということではなく,「意味がない」のような気がします。

 と,いうようなレベルに地震の予測はありそうなので,この発表に一喜一憂ししても仕方ないと思います。

 ところで,以前にも次のようなことを書きました。原発の耐震設計では,相当の費用を投じて活断層の詳細な調査をして設計用地震の参考にしています。これも分かった活断層の調査です。つまり,暗い夜道で落とした鍵を街灯の下だけ一生懸命探しているようなものだと。

・「過剰適合」の例え
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20160508/1462669861
・力の入れどころー大局観
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20160424/1461457023

 なお,活断層だけから設計用地震力を決定しているのではありませんので,設計用地震力が小さくて危険だと言いたいのではありません。あまり意味のない調査じゃないかということです。