報道では分からなかったこと ー 福井地裁もらい事故判決

 福井地裁のもらい事故賠償金支払い命令の報道には驚きました。しかし,異様過ぎて報道になにか抜けている情報がありそうなので,ブクマコメントも報道記事への疑問にとどめ,判決へのコメントは控えておきました。そして今日,やっと判決文を読みました。

 判決文には,案の定,報道では分からなかった意外な事実がありました。それは,ぶつけられた車の運転者は個人としては被告ではなく原告だったことです。何を寝ぼけた事をとお思いでしょうが,ちゃんと説明しないと分かりませんね。実は争いは2つ有りました。ややこしいので整理して示すと次の様になります。

(関係者)
・対向車線にはみ出した車の運転者:A
・対向車線にはみ出した車の所有者:G(死亡)
・Gの妻及び両親:B,C及びD(以下Bらという)
・ぶつけられた車の運転者:F
・ぶつけられた車の所有者:E

 Eは法人で,FはEの代表取締役。つまり,Fの運転していた車は会社の車で自賠責も会社名義だったと言うことのようです。そして,争いは次の2つです。 


(甲事件)
原告Bらが被告Aに対して民法に基づく損害賠償を,被告E(Fではない)に対して,民法及び自賠法に基づく損害賠償を求めた。

(乙事件)
原告Fが,被告Aに対して民法に基づく損害賠償を,原告Bらに対して民法及び自賠法に基づく損害賠償を求めた。

 FはEの代表取締役ですから,実質的には甲事件の被告かもしれませんが,原告Bらは,F個人の責任を追及したいのではなくて,自賠責制度を利用して少しでも補償を得たかったという事かと思います。Fではなく,Fの使用人のEの責任を求めているからです。しかし,運転者Fに過失が無いと証明されると自賠責から保険金が支払われないのですね。(自賠法第3条)裁判官も出来るだけ補償ができるように配慮したのかどうか,「過失があるとも無いともいえない」と苦しい理由にしたという印象です。配慮云々はもちろん憶測に過ぎません。

 ただ,よく分からないのは,甲事件ではFは当事者ではないことになりますが,Fの脇見運転の過失が審議されています。この辺りはモヤモヤ感が残ります。

 自賠責は強制であって,事故を起こした加入者のためというよりも,事故の被害者の救済を目的としているようなところがありますので,こういう判断も有りかなとは思いますが。