PFI効果の理由

 内閣のPFI推進室の資料によるとPFI事業の平成25年度までの累計は440件,総事業費は43,180億円である。PFIは公共事業に民間のノウハウと資金を導入してコスト削減を図るものであると言われている。実際にも導入によってコストは削減されている。しかし,サービス購入型PFIでは,そのメカニズムは民間ノウハウや資金とは無関係であると考える。

■民間ノウハウ

 PFIの大きな特徴は設計,建設,維持管理運営を一括して発注することである。それぞれを別別に発注すれば部分最適となっても全体最適となるとは限らない。建設費(初期投資)を縮減すれば維持管理運営費が増え総コストも増える場合もあるからだ。特に公共の維持管理運営は民間に比べ非効率と言われており,大きなコスト縮減が見込める。・・・このようにPFIの解説書には説明されている。確かに,施設を使った収益事業を行う独立採算型は殿様商売の公共運営よりも民間事業者のほうが優れている。この種の収益型事業はPFIに向いているといえる。というよりも,そもそも収益事業を公共が直接行うのがおかしいといえる。
 
 ところが,PFIの多くはサービス購入型である。これは公共が施設の使用料をPFI事業者に支払うタイプであり,いわゆる建設PFIとかハコモノPFIと言われるタイプである。これらについては,既に民間ノウハウは取り入れられている。大昔には,設計,建設,維持管理まで公共内部で実施していた時代もあったが,現在は殆どすべて民間への外注なのである。設計,建設,維持管理の個々についてはPFIによる改善の余地はない。ただ,これらを総合的に考慮できる一括発注方式では改善できる余地は一応有りそうである。しかしである。その種の民間ノウハウを保有しているのは,その事業を熟知しているからである。ホテルならばそのホテル運営方針に合わせて建物の設計も行う。飲食業も経営者の方針によってインテリアは決められ,それによって収益も変わって来る可能性がある。この点でも収益事業の独立採算型ではメリットがある。しかし,庁舎で行う事務作業を熟知しているのは役所なのである。役所の事務業務専門の民間企業は存在しない。また,民間も含めた一般的な事務所設計のノウハウは設計事務所保有しているが,既に公共は設計事務所に外注して利用しているのである。

 つまり,民間ノウハウの利用という点に関して言えば,PFIでも従来の外注でも同じである。違うのは庁舎という施設を自ら保有するのか,SPC(PFI事業者)から借りて使うのかという点である。簡単に言えば,持ち家に住むか貸家に住むかの違いであるが,どちらにしても家の設計建設や維持管理は専門業者が行っており,居住者が行っているわけではない。どちらが得なのかは,使用する期間で決まって来る。貸しビルの初期投資を取り戻す期間を超えるのなら自ら保有した方が得なのは言うまでもない。一般的な庁舎は長期間使うので保有を原則とすることは,はるか以前の大蔵省も明言していたと記憶している。

 事務所ビル建設や維持管理のノウハウに企業秘密といえるような民間ノウハウは殆ど無い。例えば,建設段階の初期投資を増やせば,維持管理費が減り,トータルで安くなるというようなことは,教科書に書いてある一般的知識である。ただ,予算の都合で出来ないだけなのである。PFIの場合,建設費と維持管理費が一括なので,融通がしやすいというメリットが無いこともない。ただ,このメリットはPFIのメリットというよりも硬直的な予算制度の裏返しに過ぎない。PFIは硬直的な予算制度の法網をたまたますり抜けているだけである。

 維持管理費については,むしろPFIの方が高く付く可能性もある。PFIは20年30年という長期契約である。建物の維持管理契約をそのような長期間にしてしまうと,コスト縮減やサービス向上を行うインセンティブが働かなくなってしまう。マンションの維持管理でも,毎年同じ相手と継続契約を続けていると高く付いてしまうので,時々,入札で競争させ,刺激を与えた方が良いのは管理組合なら知っている知識である。

■民間資金

 結局,サービス購入型では技術的な面のメリットは特に見あたらない。では資金面ではどうかというと,PFIの方が不利なのである。なぜなら,公共では支払う必要のない利子の負担が民間資金では発生するからである。利子を支払うのは手持ち資金がなく借金をするからであるが,公共,特に国は最も多くの資金を持っており,通常は借金をしない。する場合も国債という金利の低いものが利用出来る。それは国に信用があるからだ。信用のある国がわざわざ金利の高い民間資金を利用するという奇妙な仕組みがPFIである。しかし,公共は国だけでなく,地方自治体もあり,概ね財政難である。つまり資金がないので地方債という借金で庁舎を建てたりする。ただし地方債は将来の財政を見越して発行する必要があり乱発は出来ない。それはPFIでも同じなのである。PFIになったからといって借金が沢山出来る魔法が使えるわけではない。返済しなければならないのは同じであるし,むしろPFIの方が返済額は増える。ただ,独立採算型では技術的な面での事業費のコスト縮減がそれを上回るということで行っているのである。しかし,単なる庁舎建設PFIには前述の通り,それが見込めないのである。にもかかわらず,現実の入札額は安くなる。その理由は後述する。

 国の場合はもう少し奇妙なことになっている。公共事業は建設国債などの借金が認められているが,それは単なる借金ではなく公共事業のインフラが将来に価値を生み出すからである。ただし公共施設というよりも公用施設である庁舎の類は公共事業ではなく,原則,借金は出来ない。これらは,決められた予算の範囲内でやりくりしているだけである。ただし,大規模庁舎では建設工期が数年になるので,その期間内の契約を初年度に行う必要があり,受注者に対して後年度に支払うという約束をする(国庫債務負担行為)ことはある。これは借金のようなものであるが,金利はないし,10年ローンのような融資者に対する借金でもない。

 これがPFIになると,建設完了までではなく,その後の数十年という維持管理期間まで延長して,金利を付けて返済することになる。しかし,発注者の国が返済を延ばさざるを得ない理由は何も無いのである。あえて考えれば建設期間の予算枠を超えるような大規模工事も後年度の予算枠を期待して発注可能になる。財布の小さい自治体がPFIを使うのはそういう事情があるのかもしれないが,国の財布は十分大きいので,1件の工事ではあり得ない。多数の工事を一時期に発注すれば別だが,そもそもそのような発注計画が妥当かという問題がある。そのような事をすれば,後年度の予算が借金返済で喰われて,発注が出来なくなってしまう。つまり,年度をずらして平準化して発注すればよいものを,わざわざある年度に集中して発注し,その後は殆ど発注しないという変動の大きい発注計画になるだけである。

 大ざっぱにまとめると,PFIになったからといって予算枠は決まっており,使える金は同じである。従って,コストを削減しなければならないが,単なる庁舎建設と維持管理ではその余地はない。むしろ,金利分コストは増える。考えられるメリットは,将来の予算枠を担保にして前倒しで大規模工事や一斉発注が可能になることである。しかし,そのような不均衡な事業執行をする理由は殆ど無い。

■数字合わせのVFM

 それでも,一応PFIの方がお得であるというVFM(バリュー・フォー・マネー)の計算はする。しかし,それは数字合わせに過ぎない。民間ノウハウによるコスト縮減を公共の発注者が知っている筈がないから,あくまで適当な縮減率を想定するだけである。それだけならまだしも,特に奇妙なのは将来負担の割引率の設定が異常に大きいことである。私が知っている以前の事例では民間資金の金利よりも大きいのである。このことは単に借金するだけで得になるということを意味する。私は経済学の門外漢であるが,この割引率の設定だけは腑に落ちない。民間事業では税法などの不備を突いて利益を生み出す錬金術があるが,公共事業でそんなことをしても無意味であると私は思う。

PFIの本当の効果

 上述の通り,ハコモノ建設では民間ノウハウは既に利用しており,PFIで新たに導入出来る要素はないし,民間資金を利用する必要もない。金利分だけコストは増えるので,喜ぶのは金融機関(あるいは財務省も)だけである。建設業者や庁舎を必要とする発注者にメリットはない。にもかかわらず,入札すると落札額は非常に安くなる。PFIの落札率は低いのである。その理由はおそらく談合が困難になるからであろう。なぜなら,PFIの事業者であるSPCの主体は必ずしも建設会社ではないからだ。要するに談合集団への外部からの参入で競争性が確保されるのである。さらに制度的な理由もある。通常の公共建設工事には低入札を排除する仕組みがある。いわゆるダンピング防止の仕組みである。ところがPFIにはそれがなく,1円応札も可能なのである。

 国交省は技術官庁なので品質確保とダンピング防止に熱心であるが,業行政も行っているため建設業界の競争性確保には及び腰である。一方,財務省は金融機関に対しては別としても,建設業界に対しては気兼ねなく競争性を求めることができる。いわば部外者の財務省は建設業界の談合体質を真正面から壊すことができ,PFIで現実に壊したのである。それがPFIのコスト縮減効果の仕組みであり,民間ノウハウや民間資金の活用は無関係であると私は考える。