建築コスト縮減のオリジナリティ

新国立競技場 ザハ事務所「驚くほど似ている」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151222/k10010349881000.html
「きょう決定したデザインは、座席の配置などが自分たちのデザインと驚くほど似ており、およそ2年間を費やしたデザインや、推奨したコスト削減策の多くが取り入れられている」

 ザハ案のコスト縮減策がどのようなものか知らないが、A案と似ている可能性は十分ある。なぜなら、コスト縮減策は誰の提案でも同じようなものでオリジナリティのあるものはほとんど見たことがないからだ。画期的なコスト縮減などというものはなく、地道な努力を重ねるしかないと思う。

 以前から国交省はコスト縮減を大きな政策の柱としている。省内の事業においても、コスト縮減策を求めているし、設計や工事の発注の際にも提案を求めている。総合評価落札方式の定番メニューなのである。*1相当数の実績が積み上げられ事例集も編集されている。

コスト構造改善の知恵袋
http://www.mlit.go.jp/tec/chiebukuro/

 リンク先をご覧いただければ、一目瞭然だが、いずれの縮減策も常識的なものばかりである。数十年前に私が学校で習ったようなものまである。ただ、縮減前の計画が常識的でなければ確かにコスト縮減にはなる。例えば、「発生材料の再利用」は、元が再利用をしない計画だから、効果があるといえるのだ。不思議なのは、そのアイデアは、何度でも使えることだ。ある工事で発生材料の再利用でコストを縮減したとする。次の工事では発生材料の再利用を前提として、さらにコスト縮減の新しいアイデアを求めるかというとそうではない。再び、発生材料の再利用が使えるのである。毎年5%のコスト縮減を2年間、積み重ねても0.95×0.95=0.9025 にならず。0.95と変わらないのである。このことは以前の記事で述べた。

分母が足りないー総合コスト縮減率(2)
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20130823/1377291221

 以前の記事は国交省内部の問題として述べたが、国交省設計事務所や建設業者にもコスト縮減を求めている。役人の頭は固いが民間なら素晴らしいアイデアが次から次に湧き出てくるかというと、それほど甘くはない。ザハだろうと、隈研吾だろうと、ゼネコンだろうと建築分野からは画期的なコスト縮減は生まれてくる見込みは少ない。画期的な技術革新は新材料の開発のような他の専門分野からもたらされることが多いのだ。そしてその類の革新が毎年起こることはありえない。毎年毎年積み重ねるコスト縮減努力とは、既にある方策を取り落とすことなく取り入れ、後退しないようにすることだ。それでも結構大変なのである。

 また、技術的な面より社会経済面の影響が大きいということもある。新国立競技場の場合も材料や労務費の高騰が主因である。材料によって高騰の程度は違うので、鉄骨構造を鉄筋コンクリート構造に変更ということもよくあった話である。このようなことは、一つの建物の設計で対応できることではなく社会情勢次第である。

 以上のことから、建築計画のコスト縮減においてオリジナリティを主張するのは相当無理がある。もし主張できるのであれば、特許が取得できるはずだ。*2もう一つオリジナリティを保証するものに著作権もある。こちらは芸術作品に認められるもので建築でも主張できる。しかし、コスト縮減策を芸術というのは相当どころか全く無理だろう。

*1:総合評価落札方式の提案としてコスト縮減を求めるのは間違いである。なぜなら、コストは価格にすでに反映されているからである。価格と提案の総合的評価をする時に、提案にもコスト縮減は入っていれば二重計上である。にもかかわらず、応札者がコスト縮減を提案し、発注者が評価しそうになったことがある。

*2:ただし、建築関係では昔から一般的に使われている工法にまで特許が認められることがあるので、特許も信用できない。例えば、外付けフレームによる耐震補強は鹿島建設が特許を取得している。こんな誰もが考えることでも特許は認められるのだ。