築地市場跡地賃貸案

市場 豊洲移転で調整 小池知事指示、築地も活用

この穴埋めのためにも築地は売却せず、民間ノウハウを生かすなどして利用し、定期借地などで中長期的な収益確保策を練る。

■民間ノウハウ
 築地市場跡地を売却せずに賃貸する案を検討中だそうです。事業者が土地を購入するのは,購入費用を上回る収益が見込めるからで,例えば貸しビルからの賃貸収益がありまず。ならば,売却せずに自ら賃貸したほうが得かというと,それほど単純ではありません。土地の購入費以上の収益を上げられるのは,賃貸事業のノウハウを持つ専門事業者だからです。それが分業化というものです。ノウハウはタダで得られるわけでも,簡単に身につくものでもありません。だからこそ,分業,専門化が進んできたわけです。東京都が民間ノウハウを生かせば,自動車を生産して利益を上げられるかというと,無理です。

■自社ビルなら公共もやってきた
 とはいえ,森ビルに怒られるかもしれませんが,貸しビル程度なら役所でも可能かもしれず,収益を上げるためではなく,支出を減らす目的では,似たようなことが昔から行われています。いわゆる役所の合同庁舎や総合庁舎と言われるものです。役所にはさまざまな部署があり,それぞれの部署で使う施設をその部署で手当てする場合もありますが,財務担当部署が一括して手当する場合もあります。一括して施設を整備する場合,合同庁舎に施設を集約し,様々な部署に入居してもらう方が効率的です。いわば,役所内貸しビル業のようなもので,大家は財務担当部署,店子がそれぞれの事業部署です。

 このように,役所が自分で使う床をどのように手当てするのが効率的なのかについては,かなり以前に国の理財局が検討して報告しています。庁舎を自前で保有するか,あるいは民間貸しビルを借りた方が得かを比較したのです。結果は条件によって違います。短期間の使用なら借りた方,長期間使用するなら保有したほうが得という,常識的な結論です。分かれ目の期間は貸しビル業者が投資を回収する期間になります。通常は長期間使用することが多いので,保有が原則となっています。

 しかし,事業部署ごとで見てみれば,短期間の使用もありますし,部署自体が組織再編でなくなることもあります。その場合でも前述の合同庁舎としておけば,融通が利くわけです。そういうわけで,PFIなどが現れるまでは,庁舎は保有が原則でした。PFIも最終的には公共の財産になるパターンがほとんどです。

■民間店子はリスクあり
 以上は,役所が自ら使用する床についての話ですが,さらに民間の店子を募集しようというのが東京都のアイデアです。ですが,民業圧迫とか役所の行うことではない,という批判があり普通は行われません。これについては最後に述べます。上記の合同庁舎でも,福利厚生に関係する売店や食堂は入居していますが,風俗店は見た事がありませんからね。

 民間への賃貸となると,冒頭に述べた役所が持たないノウハウが重要になります。民間の床の需要情報や,レンタブル比の高い貸しビルの仕様などのノウハウは役所にはありません。役所が自分で使う床についてのノウハウは役所が一番ありますが,民間に貸すとなると,空き家率の心配もしなければなりません。それに,民間貸しビル業は,余った手持ちの土地を利用しているだけではありません。収益を得られそうな土地を新しく取得したり,そうでない土地は売却したりと,土地の価値の変動を予測し,それに対応する必要があります。固定的に築地市場跡地の利用だけ考えて済むのは,築地の地価が長期的に高いままで変わらないという前提が成り立つ場合だけです。

 また,ノウハウがないため,いわゆるマンション経営失敗のような状態に東京都がなる可能性もあります。築地ヒルズを建設した建設業者はがっぽり儲かったけど,資金を出した東京都は結局回収できなかったという結果に終わる可能性もあります。いわゆるリスクです。実際にはマンション経営の失敗は僅からしいのですが,築地ヒルズ開発はマンション経営よりはるかに専門ノウハウが必要でしょう。

■東京都が行う意味
 と,いろいろ疑問はありますが,最大の疑問は最初に述べた「東京都が行うことなのか」です。東京都民の利益になる事業なら東京都は行うべきですが,民間への賃貸というのは,東京都民を相手に東京都が商売をしているようなもので,疑問です。まあ,商売人が一方的にお客から搾取するのではなく,商売はお互い様なので問題ないかもしれませんが,どこか釈然としません。

 例えば,こんな感じです。マンションの管理組合が,入居者の不用品を集めフリーマーケットで売った収益を組合収入に計上するのは全く問題ありません。では,管理組合が各戸の清掃業を行うというのはどうでしょうか。当然,清掃料金は入居者から頂きます。管理組合がマンション入居者相手の商売をするわけです。

 別に構わないような気もしますが,では次はどうでしょうか。お父さんが働いて家族を養ったり,家族サービスをするのは全く普通です。しかし,お父さんが本業以外に家族相手の商売をして子供から得た売り上げを家計に計上するというのは,意味ありますか。