大騒ぎになったわけー騙される側の問題

 小保方事件が大騒ぎになったのは,論文に実績も信用もある研究者が名を連ね,理研が組織を上げてPRしたからでしょ。仮に小保方氏と無名の研究者による同じような論文がNatureに掲載されたとしても,それほど話題になることもなく,忘れ去られたのではないでしょうか。Natureは権威有る科学雑誌ですが,あくまで商業誌であり,議論を引き起こすことが目的の雑誌だとか。話題になりそうであれば,例えば,ユリ・ゲラ-やホメオパシーを扱った論文や,ネッシーのコラムが掲載されたこともあります。別に科学の世界で論文が認められたというわけでもなく,単に掲載されただけに過ぎないのですからね。

 実際のところ,ミスをする研究者は数知れませんし,不正を働く輩もそれなりにいます。従って,小保方氏という個性については,従来通りに判断し,処置すれば良いのではないでしょうか。特に,文科省あたりが危機感をもって新しい対策を打ち出す必要もないと思います。

 何か過去にあまり例のない新しい問題が起きていて,対策を考える必要があるとするならば,有能で実績もある研究者や組織がガセネタを掴まされたということだと思うのですけどね。関連しそうな事件の土壌については,既に各所で述べられています。

1.行政改革による大学や研究所の組織改革。独法化によって短期的に成果を求められるようになった。予算獲得の為の一般向けの公報も派手に行われるようになった。

2.雇用の流動化。研究所に限らず,雇用の流動化は進んでいる。終身雇用制のもと新人を組織で育てるよりも,即戦力になる人材を引き抜く方が早い。ヘッドハンティングは実績のある人材の引き抜きだが,研究職では,若い人材も職場を頻繁に移動する。採用側としては,外れを掴んだ場合,短期契約なので,再契約をしなければ被害は最小限に抑えられる。しかし,3.に述べる競争の激化で,外れの人材を第一線の仕事に起用してしまう危険も有る。

3.競争の激化は,特にバイオ分野で顕著。科学者の不正についての文献には,バイオ関係の不正が非常に多い事が記述されている。大きな利益に繋がる特許争いも熾烈。特許が絡むと,秘密主義になり,学術的に認められる前に行動を起こす必要がある。

 このような条件が重なると,十分に確認してから研究成果を発表したり,人材を起用する余裕がなくなります。それでは競争に負けてしまうので,不確実な時期に一か八かの勝負に出てしまいがちになりそうです。

 私は研究者ではありませんので,内実は知りません。従って上記の3つの土壌にも間違いがあるかも知れません。それでも,ガセネタを掴まされる側の原因究明は必要ではないかと思います。もちろん第一義的には騙す側が悪いのは当然ですが,不正の処理は淡々と行えば良いと思います。小保方氏は,既に科学の問題ではなく,労務問題,地位保全の争いに突入しています。これは個人的争いです。「悪意」か「単なるミス」かというのは,個人の処分に影響するという点でのみ意味があるだけです。一方,科学の問題や騙される側にとっては,「悪意」だろうと「単なるミス」だろうと同じことです。税金の投入もある公的機関の関わる社会的問題です。

 一般の行政機関がEMのようなインチキ科学に騙される例は数多く有ります。科学が本職の研究所がインチキ科学に騙される事件も少ないながら有ります。ただ,ガセネタを掴み検証する前に大々的に宣伝してしまったという例はあまりないのではないでしょうか。小保方氏の個性の分析は程ほどにして,騙されやすさの研究をした方が有用だと思います。