統計の間違った読み方

 ワクチン否定論の方のtogetterです。

「ワクチンが天然痘を撲滅した」は嘘です
http://togetter.com/li/649711

 ぼんやり読み流すと騙されそうですが,疑いの気持ちを持って見ると,素人の私でも変なところが分かります。


■適当な期間を抜き出す

実は、天然痘がワクチンによって撲滅されたという話は大嘘です。ポリオも同様です。ワクチンは効き目がない(または非常に小さい効果しかない)というのが、本当の話です。 http://t.co/X74a8JKNXZ


 天然痘は有史以来の長い歴史があります。ジェンナーが天然痘ワクチンを開発したのが1798年、1958年にWHOが「世界天然痘根絶計画」を始め、1980年に根絶宣言を行いました。ジェンナー以降でも180年の歴史の中で1820年から1850年の30年だけのデータを示しているのは何故でしょうか?

 感染症は大流行が有ったりして,年による変化が大きいです。ばらつきのあるデータの一部の期間を抜き出せば如何様な傾向も示せそうです。なんか怪しいですね。


■比較対象を間違えている

天然痘ワクチンによる死亡数と、天然痘による死亡数の比較グラフ。年によっては、天然痘ワクチンによって死亡した人の方が、数が多いことに注目しましょう。 http://t.co/WODEc6nOm0

 これは一見して変。ワクチンによって天然痘が激減したから,天然痘による死亡者数が少なくなっているだけですね。むしろワクチンの効果を示しているのかも知れません。いずれにせよ,これだけではワクチンの有害性も有効性も判断出来ませんね。

 そもそも比較対象を間違えています。このグラフの2本の線はどちらもワクチンを使用した場合のデータであって,ワクチン使用と未使用の比較にはなっていません。「ワクチンを使用しなかった場合の天然痘による死亡者数」と「ワクチンを使用した場合の天然痘による死亡者+ワクチンによる死亡者数」を比較しないといけません。


■比較出来ないものを比較している

天然痘ワクチン接種群と、未接種群で、天然痘の致死率を比較できるデータ。ワクチン接種群の方が
天然痘致死率が2倍以上も高いことに注目して下さい。 http://t.co/4egDLhghQv

 ロンドンとレスターという地域も他の条件も異なり,しかも時期の異なるものを比較しています。当時のロンドンって相当,不衛生で環境悪そうです。レスターがどうだったかしりませんが。
 また,天然痘患者の致死率を比較していますが,ワクチンによって天然痘にならない人も多く,ワクチン接種にも拘わらず天然痘になった人は元々体力的に弱かったということも考えられます。従って,患者の致死率ではなくて全人口に対する致死率を比較すべきですね。


■専門家の指摘
 以上は,私がtogetterを見た4月始めに書いたものです。一見して変だと思ったのは,2番目の「比較対象を間違えているです。」これは,専門知識が無くても常識で分かります。しかし,他の二つは,これだけでは何とも言えないという程度の疑問でした。これだけではあまり内容もないし,もっとデータが欲しいと感じていたので,記事にはしませんでした。

 その後,コメント欄にNATROMさんが専門的な突っ込みをされ,OJさんの詳細な指摘を紹介しています。明快な説明ですっきりしましたのでここでも紹介します。

OJさんの説明
https://twitter.com/jun0426

 それによると,まさに「適当な期間を抜き出」していることがずばり示されています。また,「比較出来ないものを比較している」についても,レスターでは「レスター方式」という公衆衛生対策が行われ,ワクチン接種も行われていることも示されています。