よくわからない準備預金制度

 前記事で、準備預金制度への疑問があると述べました。少し調べたら、ますます分からなくなりました。

 準備預金制度の目的の説明にはいくつかありますが、大きく分けると、①預金者保護と②通貨調節手段のようです。預金者保護というのは、預金引出しに備えるという意味のようです。通貨調節手段とは、準備率操作を通じて金融を緩和、または引き締めることのようです。①は金融機関の説明に多く、②は日銀の説明と準備預金制度に関する法律の目的に書いてあります。

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 かつては、準備率を上下させることにより、金融機関のコスト負担の増減を通じてその貸出態度等に影響を与えること、つまり、準備率操作を通じて金融を緩和、または引き締めることを目的として運用されていました。しかし、現在、わが国をはじめ短期金融市場が発達した主要国では、そうした金融緩和・引締めの手段として準備預金制度は利用されておらず、わが国の準備率も、1991年(平成3年)10月を最後に変更されていません。
 1990年代以降、無担保コールレート(オーバーナイト物)が金融市場調節の主たる操作目標になる中、準備預金制度の役割としては、金融機関に対し、日本銀行に預け入れる当座預金の残高について、日々「法定準備預金額(所要準備額)」を維持するよう促すことがより重要となってきました。これにより、日本銀行当座預金に対する需要、すなわち、短期金融市場における資金の需要を概ね安定的かつ予測可能なものとし、そのうえで、オペレーションによって無担保コールレート(オーバーナイト物)を適切な水準に誘導していました。
 もっとも、2000年代の「量的緩和政策」(2001~2006年)や、「量的・質的金融緩和」(2013年~)の時期のように、日本銀行の潤沢な資金供給により、多くの金融機関が法定準備預金額を超える「超過準備」を有することが常態化してくると、準備預金制度に、各金融機関の日銀当座預金残高を安定化させる役割を期待することは難しくなります。こうした中、日本銀行は、補完当座預金制度の枠組みのもとで、「超過準備」に一定の金利を付すことにより、金融機関の裁定行動を通じて短期市場金利を一定の範囲内で推移するよう促しています。

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 金融不安などで金融機関の資金繰りが悪化した場合に備えて、金融機関に対して、日本銀行当座預金に預かり資産の一定比率(準備率)以上を預け入れることを義務付けている制度。

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 金融不安などによって銀行など民間金融機関の資金繰りが悪化した場合、日銀当座預金に預けてある準備預金の一部を取り崩して、民間金融機関の支払いが滞るのを回避するために設けられているのが準備預金制度です。また、準備預金はあらかじめ決められた一定率によって、各金融機関が日銀当座預金に準備預金を積み立てていますが、この率を引き上げると、金融機関から日銀に資金が吸い上げられるため、金融引き締めと同じ効果をもたらします。逆に預金準備率が引き下げられると、金融緩和の効果が期待できます。

 先ず、①預金者保護については、日銀の説明にはありませんし、法律の目的にもありません。主に、民間金融機関が説明していますが、日常的な顧客による預金引出しに備えるためなら、銀行に現金を置いておかないと業務に支障が出ますし、額的にも僅かで済むのではないでしょうか。日銀当座預金から引出すのは、高額の現金の場合で事前に連絡が必要です。そもそも、多くても預金の数%の準備で預金者保護になるのでしょうか。

 次に、②の通貨調節手段ですが、日銀は現在、その目的では使っていないと言っているんですね。現在では、法定準備預金額を超える「超過準備」を有することが常態化していて、通貨調節手段として使えないそうです。そこで、「超過準備」に一定の金利を付すことにより、金融機関の裁定行動を通じて短期市場金利を一定の範囲内で推移するよう促して通貨調整しているらしいのです。だとすると、超過ではない準備預金は何のためにあるのか私には分かりません。現在は特に意味はないけど、歴史的経緯で残っているだけという印象を受けます。

 以上二つ以外に、準備預金の日銀当座預金には、良く知られた役割があります。金融機関が他の金融機関・日本銀行・国と取引を行う際の「決済手段」としてのご存じの機能です。A銀行のX口座からB銀行のY口座に振り込む場合、X口座の数字を減らし、Y口座の数字を増やすだけでは、A銀行の債務が減り、B銀行の債務が増えることになってしまいます。そこで、日銀のA銀行口座の数字を減らし、B銀行口座を増やして、振込は完了します。これは明快でよーくわかります。

 最後に①預金者保護について、もう一度考えてみます。銀行が日銀当座預金から現金を引き出すことが出来るのは、それ以前に現金を預けているからでしょう。でも、本当に現金で預けたのでしょうか。銀行が誰かに融資した債権でもよいのではないでしょうか。それでよいのなら、その債権は、信用創造で銀行が無から生み出したもので、現金の裏付けがあるものではありません。つまり、預金者保護と言っても、いざというときに日銀が現金を用立てているにすぎませんので、銀行保護と言った方が実態に近いような気がします。

 実際の所、日銀当座預金への出し入れが現金を伴うのかは、私の調査能力ではよくわかりません。しかし、少なくとも、上記の銀行間の振込では現金は伴っておらず、数字の操作だけです。なんというか、昔の金本位制の亡霊が残っている気分で釈然としないのですが、私の理解能力を超えてしまったようです。