豊洲市場地下ピット決定者の意味

東京・豊洲新市場 盛り土なし、決定者不明 報告書「段階的に変更」
http://mainichi.jp/articles/20161001/ddm/001/010/168000c
 東京都の豊洲市場江東区)の主要建物下に盛り土がされなかった問題で、小池百合子知事は30日の定例記者会見で、2008年10月ごろから盛り土をしないことが内部で検討され始め、建物の最終的な設計(実施設計)が完了した13年2月までに段階的に方針が変更されたとする都の自己検証報告書を公表した。「いつ、誰が決めたかをピンポイントで指し示すのは難しかった」と述べた。

 小池知事は盛土なしの意思決定者が特定できなかったと述べていますが、報告書を読むとはっきりと特定されています。

 平成22年11月12日、「モニタリング空間設計等は本設計に含む」と明記された特記仕様書による基本設計が起工され、この決定は建設技術部長が行っています。
 平成23年8月18日、新市場整備部の部課長会議において、地下にモニタリング空間を設置する方針が部として決定されています。
 平成23年9月6日、実施設計の起工を市場長が決定しています。
 平成24年2月28日、地下空間が明示された実施設計が完了しています。

 以上については、時点時点で決済が行われ、責任者の部長や市場長の押印がある決裁書も報告書資料にあります。組織の決定では当然のことでことさらに調査などしなくても決済書類を見ればわかることです。にもかかわらず意思決定者が不明というのは何故でしょうか。組織人の私は不思議で仕方ないのですが、小池知事が全然不思議に思わない理由も想像できます。このような通常のルールによる組織的な意思決定ではなく、鶴の一声による政治的決定があったことを期待していたのではないでしょうか。例えば石原元知事とかです。解明を進めている小池知事も政治家ですから、政治決定こそ意思決定という認識なのかもしれません。

 政治決定にはそれに関わる利害関係者が数多くいますので、新聞が喜びそうな利権、不正、隠ぺいというキーワードが期待できます。元々、市場移転には利害利害関係者が多く、典型的な政治案件ですから、「不正事件」はいかにもありそうです。実は「盛土」なんかどうでも良くて、裏に潜む政治的不正を暴き出す呼び水にするのが小池知事の真意であった、というのは考えすぎの勝手な想像ですが、全くないとも言えません。

 さらに、メディアも「不正事件」を期待していたんじゃないでしょうか。でも残念ながら、ニュースバリューのある隠ぺい工作は今のところ出てこず、役人がめくら判を押したありふれた書類が出てきただけです。でもそれじゃインパクト不足です。裏で政治家や利権関係者が糸を引いていないと面白くないのでしょう。そんな週刊誌ネタで大事な都市インフラ整備が滞るのもどうかと思います。もちろん、危険な都市インフラ建設は中止しなければなりませんが、現時点で得られる情報の限りでは、私は危険を感じません。確かに、環境評価をやり直さなければならないなどの、手戻を招いた不手際はありました。それは、仕方ないでの、さっさとやり直せばいいと思います。

 その結果、移転中止という事態も考えられるのでしょうか。専門外のことなので断言はできませんが、感覚的にありえないと思います。環境基準を満足する地下深くにある「汚染地下水」の影響が、盛土から地下ピットに変わったことで深刻なことになるとは思えません。むしろ改善するのじゃないでしょうか。盛土中を地下水が浸透上昇していく可能性はありますが、ピット空間を重力を無視して飛んで行く可能性はありません。気化したベンゼンも空気より重いのでピットの下に溜まるだけです。モニタリングして換気すれば済みます。そもそも、そんなことを心配するほど地下水にベンゼンが溶け込んでいるんでしょうか。汚染土は入れ替えられて浄化されているはずですが、再汚染に備えた念のための対策が盛土等です。再汚染を早期に検知するためには、地下ピットは役立ちそうですけどね。

 ところで、私には、ひ素やベンゼンよりも気になるものがあります。天然ガスです。千葉や東京には以前、ガス田があったくらいで、天然ガスが噴出します。2004年には九十九里イワシ博物館で爆発事故が発生して、学芸員の方がお亡くなりになりました。昭和33年から平成5年の間に、東京都区内の建築で42件のガス噴出が発生しています。

「施設整備・管理のための天然ガス対策ガイドブック」
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000616915.pdf

 対策としては、ガスを貯めないことで、地上の建物に流れ込む前に地下ピットで検出して排気するのは有効です。他にも危険はいっぱいあるわけで、もちろん築地にもあるでしょう。