暑がりと寒がりの両者が満足する室温設定は存在しない

将棋電王戦FINAL「ソフト事前貸し出しルール」反対派はソフト開発者5人中1人 http://shogi1.com/denousen-software-rule/

 この記事を読んで,だいぶ分かって来ました。

 端的に言えば,ソフト事前貸し出しルール反対派は,電王戦を公平な勝負と捉えていて,賛成派はソフト開発の手段と見ているのですね。

 人間同士の対局と同じ勝負でそれに勝つことが目的と考えるならば,ルールが公平であることが重要で,事前貸し出しルールは公平なのかが問題になります。

 一方,ソフト開発の手段に過ぎないのなら,ソフトのバグを見つけるのに役立つ事前研究は大歓迎となります。この場合,最終的な目的は勝負ではなくて,やねうらおさんが述べたように,「人間と末永く対局して遊んでもらうための将棋ソフト」を開発することです。

 では,主催者はどのように考えているかというと,人間とソフトの対局は異種格闘技なので公平なルールは存在せず,電王戦は人間のプロ棋士同士の対局とは違うという見解です。そのことをはっきりさせるための期間限定の催しだったようです。将来に渡って継続するようなものではないということです。

 異種格闘技のようだと私も感じましたが,同種競技ではあっても得意技が違う場合により似ているかもしれません。例えば,ノルディックスキー複合では,ジャンプと距離の重み付け次第で有利不利が生じます。ジャンプが得意な選手と距離が得意な選手の両者が完全に合意できるルールは困難です。これが,人間の棋士とコンピューターソフトとなると得意分野の能力が桁違いに違うので,公平なルールはほぼ絶望的です。

 また,相手の不得意な闘いに持ち込むことだけが総てという勝負になるのじゃないでしょうか。差し手争いで勝負が決まる相撲のようなもので,不得意の差し手になれば,その時点で勝負あったも同然で,その後はつまらない敗戦処理のようなものです。だからといって相撲がつまらないかというとそうではなく,差し手争いが面白いと思えれば良いのです。差し手争いはフェアではないので,横綱相撲を取るべきだと不満を述べる力士もいません。将棋も同様に,ハメ手の局面に持ち込めるかという視点で観戦を楽しめるかどうかですが,難しそうです。

 また,自動車と足の速さを競う競技もありません。ハンディやルールを工夫して拮抗した勝負になるようにしたところで,あまり面白くなるとも思えません。頭脳を機械と競う勝負も同じような気がするんですね。そんなことを露わにしたというメタな意味で興味深い催しだったと思います。