御嶽山噴火で思いだしたこと

 御嶽山噴火で噴火予知や避難所整備に予算投入を求める声が出ています。しかしですよ,仮にエベレストで災害が起きても,そう言う声はあまりでないのじゃないでしょうか。一方で,高尾山で被害が出れば安全確保の要望は強そうです。エベレストは危険を承知の上で行う冒険に近いスポーツですが,高尾山は安全が前提のレジャーに近いからです。御嶽山はその中間の微妙なところに位置していてなんとも判断が難しいのではないでしょうか。しかも,火山の噴火予知は登山客のためというよりも,周辺の住民の安全が主目的のような気もします。登山客の安全の為である場合も,地元の観光資源の確保が裏に有るのではないでしょうか。純粋に個人の遊びの為に公共的な予算や資源を投入されることはあまりありません。

 私は,ウィンドサーフィンというマイナースポーツをしていたので,そう言うことを昔いろいろ考えました。同じマリンスポーツでも大勢が訪れる海水浴では安全の為に公的資源が投入されます。ところがウインドサーフィンはほぼ自己責任の世界です。地元住民にしても大してお金を落としてくれないサーファーは迷惑ものでしかなく,お金を注ぎ込むなんて考えられないわけです。そういう環境で地元民や警察,海上保安庁などと,折り合いを付けながら遊ぶものなのです。自己責任とはいえ,事故の時にはお世話になるので折り合いは必要なのです。大抵はショップの人が苦労して環境整備を行っています。公的な支援は有りませんが,不完全ながら業界もあるのでショップの支援はあるということになります。完全に個人で行う冒険とまでは言えないスポーツなのでそう言う面も有るのです。業界も存在しない超マイナーな遊びなら完全に個人ですべてを行うことになります。

 よく,台風の時に波乗りして遭難するサーファーが無謀だと批判されます。波乗りのことはよく知りませんが,ウインドサーフィンでも相応のサポート体制の元で台風の海に出る人がいます。しかし,無謀かどうかはその人の技量によるわけで一概には言えません。全くの素人がエベレストに挑戦するのは無謀ですが,一流のアルピニストが遭難しても無謀と批判されることはありません。それと同じで台風の海に挑戦出来るエキスパートも存在します。その辺については山の場合は歴史が古く,社会的認知が有りますが,海の場合は一律に無謀と言われがちです。でも逆に,自分で危険の判断を強いられる面があり,無謀をしにくい雰囲気もあります。陸上のハイキングレベルのような気楽に出来る状況は少なく,初心者でもいきなり危険な目にあう可能性があって,危険を実感させられます。そのためスクールでは技量レベルに応じた様々なタブーを教えます。

 多分,技量に応じた危険性は海水浴のほうがウィンドサーフィンより大きいと思います。なにしろ,ろくに泳げない子供も遊んでいるくらいです。沖に流されたらまず助かりません。その点ウインドサーフィンはウェットスーツを着ていますし,波乗りよりも浮力のあるボードを使いますから,救援を待てば助かる可能性が高いのです。それでも家で読書しているよりは危険なのは間違いなく,その程度の危険を冒す価値が感じられる遊びなのです。

 国や自治体という公共は,国民の福利厚生や最低限の安全を守る義務があります。ただし,生活環境整備を行う者や業として遊びを提供する事業主が確保すべき安全であって,遊んでいる個人に安全にしろと口を出す権限は有りません。入会権など権利関係がある場合を除き,公有空間で何をするのも自由なのです。また,遭難した場合の救助費用を理由に個人の自由を制限する意見も有りますが,海上保安庁や警察が行う救助以外は有料ですから理由になりません。だからこそ保険に加入しておく必要があるのです。そこまで含めて自己責任ということだと思います。

 御嶽山登山はスポーツというよりもメジャーな観光に近いので,公的支援が取りざたされるのだと思います。マイナーなスポーツでは被害者が出ても,迷惑だぐらいにしか考えないひとが多数です。それはもっともなことで「だから止めろ」とおせっかいを言わないのならそれで結構なのです。現実にはマイナーとメジャーは程度問題で,御嶽山は観光だとしてもスキー場のように事業者が管理しているわけではない自然です。ある程度の危険は了解済みと見なさざるを得ません。なので,公的支援をどの程度行うかはなかなか難しい面が有ると思います。例えば,今回の救助費用は,自衛隊などの公的なもの以外は請求されるのでしょうか。通常は請求されますが,今回はそんな空気ではないですね。