豊洲市場をめぐる政治判断

 豊洲市場問題をめぐる問題で,18人の関係者が減給の懲戒処分になった。この処分は行政組織の内輪の話なので私がとやかく言うことは無い。内輪話だということは,処分理由から分かる。理由は,「当時の幹部らが盛り土を行わない方針を決定したことに加え、敷地全体に盛り土をしたと、事実と異なる説明を続けてきたことなどの不適切な行為によって、都の信用を失墜させた」である。食の安全を脅かした,あるいは都民に損害を与えた,等の理由ではない。都の信用を失墜させたである。

都の信用を失墜させたというのは,都という行政組織の損害であり,都民や関係者の損害ではない。都民や関係者の損害は,市場移転の大幅延期によってこれからもたらされ,それを決めたのは都知事である。もちろん,都知事にそのような決断をさせた遠因は18人の被処分者である。しかし,信用失墜と移転延期に直接的な関係はない。直接的な理由足りえるのは,延期せずば安全が確保できない等の理由である。だが,安全が確保できないと言っている専門家はいない。せいぜい疑問を呈しているだけだ。

 例えば,専門家会議の座長は,盛土について都がやると約束したのだから約束を果たさなければならないとは言っていたが,盛土がないことが危険だとは言っていない。安全の確認がさらに必要になるが,それは施設を使いながら可能という言いぶりであった。これほどまでのことをやる必要があるか知らないが,やると言ったのは都でしょ,と突き放した言い方であった。また,市場問題PTの委員は,さらに踏み込んで,手続きの問題はあるにしても,建物下のモニタリング空間は改善であって,より安全になっていると発言している。(私の第一印象も同じで,いまだ変わらない)

 手続き上大きな問題は,環境アセスメントの訂正あるいはやり直しである。そして,それが完了しないと移転できないというのはある局面だけ見た場合は正論である。あるいは杓子定規ともいう。だから,責任を負いたくないお役所仕事の公務員なら移転延期する可能性大である。その結果,都の財政には大きな被害が生じるが,自分の財布には響かないからだ。でも,それでよいのかと大所高所から考えるのが政治家である。移転延期しなければ危険な事態が予想されるのか,専門家の意見を聞いて判断するのが都知事が行うべき判断である。その判断に正解はない。政治判断だからだ。

 なぜ,政治判断が必要かと言うと,正論という答えのない複雑な問題が多いからだ。そのような複雑な問題を正論で処理するとなにかと損害をもたらす。正論は単純な問題しか取り扱っておらず,よりどころとする「規則」にはすべての要因を盛り込むことができないからだ。それを補い,総合的に高度な判断をするのが政治判断である。正解のない政治判断は裏目に出ることもある。もし結果が伴わなければ政治家は信用を失い,選挙で負けるが,政治とはそういうものである。私利私欲で動かない政治家はそのリスクを恐れない。

 一方,正論は有権者にわかり安いというメリットがある。また,有権者には,自分の利益が損なわれても,役人の処分によって憂さが晴れる人も結構存在する。このような心理を利用した選挙対応はさらに「高度な」政治的判断である。政治的判断にも,公共利益目的のものと,選挙勝利目的の「高度な」ものががある。果たして,都知事の政治判断は何れだろうか。