海の駅ー奇妙なネーミング

 知らない人も多いと思いますが,「海の駅」は平成12年に国土交通省海事局が打ち出したマリンレジャー振興拠点です。同じ国交省の道路局のヒット作「道の駅」の二匹目のどじょうを狙ったのであろうと察しがつきます。ただ,10年以上の年月を経ても,知名度は今ひとつです。二匹目が巧く行かないのは世の習いですが,それ以上に私は「海の駅」というネーミングに違和感を感じました。

「海には「港」というものが有りながら「駅」と言い換えるのは海事局としては情けなく無いのか。海の自負心よりも「道の駅」の成功にあやかりたいという心情が透けて見えるようだ。」とね。

 先行ヒット作の「道の駅」の方はグッドネーミングと思うのですよ。高速道路には休憩,食事や物品販売施設のS.A.がありますが,一般道には存在しませんでした。S.A.の一般道版として登場したのが「道の駅」ですが,もしそのネーミングが「一般道のS.A.」では味も素っ気もありません。そこで目を付けたのが,鉄道の拠点である「駅」ではないかと。「駅」本来の機能は鉄道乗客の昇降であり,道路で相当するものにはバス停があります。「道の駅」にはその本来機能はありませんが,駅の付帯機能である休憩,食事や物品販売があるので,「駅」と言う名称を流用したわけです。ある分野の新しい概念に他の分野で使われている名称を流用するのはキャッチコピーなどでも用いられる手法です。上手く使えば絶妙な比喩になり,注意を惹く効果もあります。しかも,「駅」には歴史があり,詩的な響きもあります。映画の名作の題名にもなっています。イメージアップに持ってこいです。集客効果の一因になっているのは間違いないと思います。

 それにあやかろうとしたのが「海の駅」ですが,海には陸の「駅」よりも歴史が古く,より詩的な「港」というものがあるのです。「港」は「駅」以上に歌の歌詞に出てくるように,情感豊かな言葉です。しかし,海の場合は元々「港」と言っているのですから,「海の港」と称しても比喩にはならず,単なる冗長に過ぎません。「鉄道の駅」というようなものです。幸か不幸か,道路には鉄道の「駅」に相当するものがありませんので,「駅」という名称の流用が絶妙な比喩になるわけです。その当たりを考慮せずに模倣的に比喩的な表現をしたのが「海の駅」ではないでしょうか。しかし,「港」というそのものずばりの言葉が有る以上,比喩として付加される微妙な印象が増すわけでもなく,行司を「相撲のアンパイヤ」というような違和感を感じるだけです。おまけに詩的な印象はむしろ「港」より劣ります。

 従来の道路には「駅」の本来機能や付加機能を持つ施設はなく,「道の駅」は新しい概念なので,比喩的な表現が効果的なのでした。それに対して「海の駅」は新しい概念ではありません。「港」の付加機能をグレードアップしただけなのですから,比喩的表現は無理があると思います。付加機能のグレードアップを印象付ける,「遊港」,「楽港」みたいな方が,陳腐ですがまだマシではないかと。