調合強度の確認 - 盲腸規定

 公共建築工事標準仕様書のコンクリート工事には、次の規定がある。

6.3.2(ウ)(d) 調合強度の確認は、材齢28日の圧縮強度による。

 この「確認」を具体的にどのように行うのかは不明である。通常、確認と言えば、試験を行う。ところが、コンクリートの強度を確認する試験には、構造体コンクリート強度や調合管理強度の規定はあるが、調合強度の試験の規定はない。と言うよりも、コンクリートの試験で調合強度より下回っても別にかまわないのである。

 一般の読者のために、調合強度とは何かを説明すると次のようになる。コンクリート工事を行う施工者がレディミクストコンクリート工場(生コン工場)に注文する時の要求性能の一つが「調合管理強度」*1である。しかし、調合管理強度を目標に調合を行うと、平均値が調合管理強度になる。つまり、50%が不合格になってしまう。そのため、不合格率を小さくするよう上乗せした強度で調合する。それが調合強度である。これで試験を行えば、50%が調合強度以下になるが、調合管理強度はほぼ上回る。

 つまり、調合強度とは、注文者の要求性能を達成できるように、生コン工場の都合で設定するものだ。極めて、バラツキの少ない製造管理が可能なら上乗せ強度は小さくて済むし、そうでなければ大きくしておいた方が安全である。本来、注文者が指定する必要もなければ、確認する必要もないものである。

 実際に確認しようすると、調合強度の値は、生コン工場に尋ねなければ分からないのである。公共建築工事標準仕様書の調合強度の値の規定は、次の通りで全く具体性が無い。

6.3.2(ア)(c) 調合強度は、調合管理強度に、強度のばらつきを表す標準偏差に許容不良率に応じた正規偏差を乗じた値を加えたものとする。

 以上のことから考えれば、「確認」とは生コン工場に調合強度をいくらにしたか尋ねることと考えるしかない。では尋ねると、どんな嬉しいことがあるかというと、特に無い。個人的見解を言えば、調合強度に関する規定は仕様書に定める必要はない。おそらく、レディミクストコンクリートが登場する以前の現場練コンクリートの規定がそのまま残ってしまった盲腸のような規定ではないだろうか。現場練の場合、施工者は、自ら調合して作るので、発注者の監督もプロセス管理として調合強度の設定値の確認をしていたのだろう。

 ちなみに、日本建築学会のコンクリート工事の標準仕様書JASS 5には、調合強度の確認の規定はない。ところが、不思議なことに、調合強度の設定の仕方は詳しく書いてある。

5.2 b. 調合強度は、標準養生した供試体の材齢m日における圧縮強度で表すものとし、(5.2)式及び(5.3)式を満足するように定める。調合強度を定める材齢m日は、原則として28日とする。

 F≧Fm+1.73σ(N/mm²)
F≧0.85Fm+3σ(N/mm²)
ここに、F:コンクリートの調合強度(N/mm²)
    Fm:コンクリートの調合管理強度(N/mm²)
    σ:使用するコンクリートの圧縮強度の標準偏差(N/mm²)

c.(略)

d.使用するコンクリートの圧縮強度の標準偏差は、レディーミクストコンクリート工場の実績を基に定める。実績がない場合は、2.5N/mm²または0.1Fmの大きいほうの値とする。

 

 確認しない調合強度について事細かに定義しているのは何故だろうか。実は、日本建築学会の標準仕様書全般にそういう傾向がある。学会の仕様書制定のメンバーには、材料メーカーの委員も参加していて、コンクリート工事では生コン工場関係者が関わっている。そのため、作る側の視点が強く出ている。調合強度をいくらに設定するかは、生コン工場としては自分たちの仕事なので、しっかり決めておきたいのだろう。

 一方、公共建築工事標準仕様書の方は、国交省が工事発注や監督する時に使う為に作っている。いわば、買う立場の視点で作られている。本来、仕様書とは、生産者に対する要求事項や、発注者の監督が確認する事項を記載した注文書である。生産者が生産する際には、仕様書以外に自分たちが作った膨大な基準類が必要になる。仕様書や設計図だけで作ることは出来ない。

 建築学会の標準仕様書は、作る立場の膨大な情報が掲載されており勉強の参考書にはなる。ただ、大部になってしまっているため、請負工事の契約書類としては使いづらい。そのため、実際に使われるのは公共建築工事標準仕様書が多い。余計な情報がなく簡潔に要点だけ記載されている。ただし、その中にも、盲腸のような規定が残っているわけだ。多分、他にもあるだろう。

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*1:正確には、注文は「呼び強度」で行う。調合管理強度は設計者が必要とする任意の値に設定できるが、レミコン工場は、JIS規格にある3N/mm²刻みのコンクリートしか製造していない。そのため、調合管理強度より大きい呼び強度で注文する。なお、呼び強度は製品の記号であり単位は無い。単位を付けた量にする場合は「呼び強度の強度値」とややこしい名称になる。