「めいわくだもの」の糖度試験

 「めいわくだもの」というフルーツが一部地域で出回っている。このフルーツはたいそう糖度が高く,人気がある。糖度がセールスポイントなので,栽培農家は品質管理に気を遣っており,出荷前に糖度の確認を行っている。その概要を説明するのが本記事の目的であるが,少し変なところがあるのだ。

 確認方法の説明の前に,栽培から出荷までの流れを述べる。この流れが確認方法に大きく関わっているからだ。まず,栽培家は種苗工場に種を注文する。糖度の違いによって種には数種類ある。ただ,糖度は栽培時の気温や環境条件で変わってくる。特に気温が低いと糖度は落ちるのである。

 種苗工場が提供する種に表示されている「呼び糖度」は,工場内の平均気温20℃の環境で栽培された標準果物のものである。従って,栽培農家は,糖度24を出荷したいが,栽培時の予想気温が低い場合には,24より大きな「呼び糖度」の種を注文する。例えば,予想気温が8℃未満の場合は,「呼び糖度」27を注文する。気温が8℃未満ならば,「呼び糖度」27の種を栽培して,糖度24になるのだ。

 さて,糖度の直接的な確認は,出荷直前に抜き取り検査すればよい。前述の例の出荷糖度24の場合は,24以上あれば合格である。しかし通常は,確認用果物を別に栽培し,それによって確認する。栽培場所は,実際に出荷する畑と同じなので,栽培温度も同じである。従って,この場合も出荷要求糖度24以上であればよいはずだ。確かに,実際の気温が20℃未満の場合の合格基準はそうなっている。ところが,実際の気温が20℃以上の場合は,種苗工場に注文した「呼び糖度」の27以上でなければならない。なぜだろうか。

 その理由を「めいわくだもの」生産組合は説明していないが,なんとなく想像はできる。おそらく,たまたま気温の予想から高い方に外れて,糖度は必要以上になったとしても,出るはずの糖度が出ないのは,糖度以外に何らかの欠陥があるかもしれないという考え方なのであろう。

 実は別に,もう一つの確認方法がある。確認用の果物を20℃の気温で栽培して,その糖度を確認するのである。この場合は,「呼び糖度」が出るはずなので,合格基準は「呼び糖度」である。しかし,この合格基準では畑で栽培された果物が必要糖度になっているか分からない。必要糖度が24で,予想気温が8℃以上の場合の「呼び糖度」は24であるが,予想が外れ,実気温が8℃未満だった場合,畑の果物の糖度は24に達せず,20程度にしかなっていないはずだ。それでも合格になってしまう。なぜだろうか。この理由は私にはわからないが,予想気温が8℃近辺の場合は注意が必要ではないだろうか。

 以上は説明のために,話を簡略化している。実際はもう少し複雑である。複雑になる要因の一つは,確認時期である。必要糖度が要求される時期は出荷時点であり,種を撒いてから3ヶ月後だ。この時期に確認する方法が冒頭に述べた出荷直前に畑で栽培した商品から抜き取り検査方法であり,気温にかかわらず必要糖度の24以上であればよい。しかし,もう少し早い時期に結果がわかったほうがよい。そのため,1か月後に確認する方法があり,それが上述の確認用果物を別に栽培する方法である。

 1か月で確認できるのは,畑の果物と確認用果物の栽培環境に違いがあるためである。気温が同じでも,確認用果物の方が栽培環境が良く糖度が早くでるのだ。つまり,畑の3ヶ月と確認用の1か月の糖度がほぼ等しい。とはいえ全く同じではないので,その分の補正も必要で,それが複雑な要因の二つ目になる。

 同じ気温で栽培しても,確認環境で栽培した1か月の果物は,畑で3ヶ月栽培した果物に比べて,3ほど糖度が高い。従って,必要糖度24を確認果物を用いて確認する場合,気温にかかわらず,最低27以上でなければならず,8℃未満ならば,さらに温度補正が加わり,30以上が必要となる。

 さらに,あまり使われないが,もう一つの方法がある。畑の環境に近い環境で育てた準畑果物の糖度を確認する方法で,3ヶ月までに行う。この場合の合格基準は,「必要糖度+3」である。

 ついでに述べると,種苗工場が提供する種が「呼び糖度」を持っているかを確認する検査も別にある。「呼び糖度」とは,気温20℃の確認環境で栽培すれば発揮されるであろう糖度であり,種の能力を表す。そこで「使用する種の糖度」あるいは「ポテンシャルの糖度」と呼ばれることもある,種苗工場が保証するものである。これに対して,「必要糖度」は,出荷される果物が実際にもつ糖度であり,栽培農家が保証するものである。


 「めいわくだもの」は架空のくだもので,つくばエクスプレスの中だけで見られるものだが,現実にも同じような品質確認をしているものがある。建築関係者ならすでにお気づきのとおり「コンクリート」である。

 日本建築学会の標準仕様書JASS 5のコンクリートの圧縮強度試験の合否判定基準は、次のいずれかを満足すればよい。

1.標準養生供試体の場合(材齢28日で試験)   調合管理強度以上
2.現場水中養生供試体の場合(材齢28日で試験) 平均気温20℃以上の場合 調合管理強度以上
                       平均気温が20℃未満の場合 品質基準強度+3N/m㎡以上
3.現場封かん養生供試体(材齢28〜91日で試験) 品質基準強度+3N/m㎡以上
4.コア(材齢28〜91日で試験)         品質基準強度以上

 コンクリートの場合にも,「めいわくだもの」の使用する種の糖度に相当するものがあり,「使用するコンクリートの強度(ポテンシャルの強度)」という。これは標準養生供試体を用いて確認するが,上記の1.とは別に行い,生コン工場が保証するものだ。1.から4.の試験で確認するのは完成した建物の強度であり,「構造体コンクリート強度」という。これは建設業者が保証するものだ。「構造体コンクリート強度」は,「めいわくだもの」の「必要強度」に相当する「品質基準強度」以上でなければならないが,供試体の強度と「構造体コンクリート強度」は同じではないので,+3N/m㎡などの補正を行う。「調合管理強度」は「構造体コンクリート強度」に「構造体コンクリート強度補正値」を加えたものだ。その値はセメントの種類で異なるが,普通ポルトランドセメントの場合,養生期間中の平均気温が8℃未満では6N/m㎡,8℃以上では3N/m㎡である。

 コンクリートの場合も,1.標準養生供試体を用いた場合,予想気温が8℃以上で,実気温が8℃未満になると,構造体コンクリートが強度不足でも合格になる可能性がある。また,2.現場水中養生供試体を用いた場合,予想気温が8℃未満で,実気温が20℃以上になると,構造体コンクリートが品質基準強度以上であっても不合格になる可能性がある。その可能性は小さいとは思うが,気になるところではある。ただ,コンクリートの強度は3ヶ月を過ぎてもゆっくりではあるが,上昇しつづけるので,実際上の支障が生じる可能性は少ないようだ。

 それにしても,コンクリートの品質管理はややこしくて,分かりにくい。鋼材のように工場で材料の品質が確定しないからだ。建設業の現場生産という特徴はコンクリートの品質管理に象徴されている。予定通りに事が進むとは限らないのだ。海外のオリンピックでは施設完成が危ぶまれることが多い。日本ではそんなことはないともいえないのだ。