ハンカチを「設置」する

 東京高裁は、ワンセグ携帯の保有も「設置」であると解釈しました。一般的な日本語の使い方として、ハンカチを「設置」するとは言いませんので、非常に無理のある解釈です。『設置』とは『NHK放送を受信可能な状態に置くこと』という解釈は、「設置」と「置く」は同じ意味だと言っているわけです。しかし、「置く」には「ある位置を占めさせる」と「ある状態を保つ」の二つの意味があります。後者の意味では、「価格を据え置く」や「人を留め置く」などと使いますが、「設置」には後者の意味はありません。

 多分、東京高裁は、「NHK放送を受信できる状態に設置」という放送法の記述の「設置」の解釈に無理があっても、前半の「NHK放送を受信できる状態」を重視して、携帯の保有も含まれると言いたいのだと思います。しかし、このようなことを裁判所が判断するのは、大げさに言えば三権分立に反する行為だと私は考えます。

 なぜなら、放送法が制定された時点では、まだ存在しないワンセグ携帯を立法府やNHKが、想定していたはずがないからです。法制定時に想定しいない事態が発生すれば、あらためて、立法府で審議し法改正するか、改正までに至らない場合でも、法を所管する省庁がその解釈を示します。例えば、脳死が個体死か否かは、医学等の専門家の意見を踏まえ厚労省が判断を示すべきで、裁判官が既存の法を解釈して判断できるものではありません。

 別の例を示せば、電気自動車の自動車税があります。自動車税は排気量で税額が異なりますが、想定外の電気自動車が出現しました。そこで、総務省は、平成22年4月1日付で各都道府県に地方税法の施行に関する取扱い通知を発して、総排気量1リットル以下の区分の税率によることが適当としています。

電気自動車の自動車税は排気量1リットル以下区分を適用

 もし裁判所が、電気自動車の自動車税について個別に判決を下せば、高裁と地裁で異なったりして大混乱になっていたでしょう。ワンセグ携帯の受信料では、正にそういう事態になっています。