木造住宅と地域係数

どうなる新耐震基準、地域係数の見直し必要〜熊本地震、損壊住宅1万棟(後)
http://www.data-max.co.jp/280429_ymh_03/
 地域係数の見直しは避けられないことですが、恐らく、日本中、大混乱になると思います。しかし、今回の熊本地震の被害を考えれば、何らかの対策は必要です。

 熊本地震では,新耐震以降の住宅も被害を受けた。それを理由にした地域係数の見直しの意見をちらほら見かける。しかし早計である,熊本地震の木造住宅被害が地域係数に起因するかどうかは,今後の調査結果を待たなければ分からない。私の予想は,熊本地震被害と地域係数はほとんど無関係だ。

 予想の理由の一つは被害状況である。消防庁の発表では住宅の全壊は2,718棟である。これは都市の規模を考慮しても阪神淡路大震災の10万棟と比べても非常に少ない。阪神淡路大震災の時は古い住宅が多く,その後住宅の耐震化が進んだ効果だろう。建築学会の調査でも,2000年以降の木造住宅の倒壊・全壊は10〜17棟と少ない。被害の主因は,旧基準の建物がまだ残っていたと考える方が自然である。

熊本県熊本地方を震源とする地震(第51報・H28.5.13更新)消防庁 
http://www.fdma.go.jp/bn/2016/detail/943.html

2000年以降の木造住宅で倒壊・全壊は10〜17棟、建築学
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/atcl/bldnews/15/041500569/051400061/

 新耐震対応の住宅は壊れないという誤解があるのか,被害が1棟でもあると大きく報道されるが,比率としては非常に小さい。また,地域係数1.0でも被害は発生しうる。地域係数1.0の地域の住宅でも倒壊するような地震だったかもしれない。

 二つめの理由は,単純だ。被害を受けた住宅がそもそも地域係数を考慮していない可能性がある。多くの木造住宅には地域係数は関係していない。小規模な木造住宅はそもそも構造計算は行わず,法令に定められた仕様規定に沿って建てられている。仕様規定には地域係数は無いのである。無い以上被害の要因にはなり得ない。

 建築基準法第6条1項に,四号建築と呼ばれるものがある。以下の条件を満たすものだ。

100㎡以下の特殊建築物もしくは特殊建築物以外(住宅・事務所)の建物で
木造で2階建て以下かつ延べ床面積500㎡以下かつ高さ13m以下かつ軒の高さ9m以下
木造以外で平屋建て以下かつ延べ床面積200㎡以下


 四号建築の耐震性等の構造耐力は,建築基準法第20条によって次のいずれかで良いことになっている。


イ 当該建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合すること。

ロ 前三号に定める基準のいずれかに適合すること。(構造計算を行うこと)

 イの規定がいわゆる仕様規定で,構造計算することなく,施行令に定める壁量などの規定を満足すればよいのである。実際に被害を受けた建物がほとんど四号建築だとすれば,地域係数は無関係ということになる。地域係数は構造計算で使うものである。

 地域係数については以前から廃止意見はあり,実は私も,実施上の困難さを無視すれば,廃止した方が良いのではないかと思っている。地域係数の考え方は,確率的なものだ。確かに,同じ大きさの地震に見舞われた場合の被害は地域係数の小さい地域が大きい。ただし,地震そのものが少ないのであるから,長期間の平均では同等になるようにしているのである。しかし,一生にたった1回しか経験しない地震で,建物所有者という個人はこのような平均を実感できないだろう。

(関連記事)確率的な建築基準法の地域係数
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20160430/1461979007

 更に,確率的考え方の基礎になっている地震の発生する確率の信頼性がそもそもそれほど高くない。そのような信頼性の低い根拠で,地域を細かく区分しても仕方ないという気はする。

 それはそうとして,熊本地震の住宅被害が地域係数に起因するとは限らないのである。