築地ブランド

 市場問題PTの報告書案を読むと,いろいろと興味深いことが書いてあります。先ず目についたのが「築地ブランド」です。

報告書38ページ
 料理屋や飲食店で、店先に「築地直送」と掲げる。市場がブランドとなっている例は、日本でも他に例がない。

 確かに,「産地直送」ならぬ「市場直送」という表示は築地以外ではみかけませんね。例えば,青森県の料理屋の店先に「大間直送マグロ」と掲げても「築地直送」とは掲げないでしょう。そもそも,大間マグロや関サバがブランドなのは納得ですが,物流の中継地点に過ぎない市場がブランドになるのが奇妙です。ただ,全く例がないわけでは有りません。例えば,「伊万里焼」は伊万里で作っているのではなく,有田焼のことです。有田焼の積出港が伊万里なので,消費地ではそう呼ばれるようになったわけです。トルコ石もトルコ産ではありませんね。

 これらのブランドは,独占的に商品を扱う正規代理店のブランドのようなものです。商品は並行輸入品などの別ルートでも入手できますが,消費者としては大手の正規代理店経由がなんとなく安心というだけに過ぎません。同様に,鮮魚は築地市場が一番多く扱っているというだけに過ぎず,築地の業者の目利きの技が特に優れていてというものでもないでしょう。もちろん,優れた目利きの技を持つ仲卸業者も存在するでしょうが,築地市場に店舗を出しているだけで優れているということはありません。なにしろ,毒魚バラハタを売ってしまうような業者もいます。

 つまり,「築地ブランド」とは,品質や技術の裏付けではなく,単に取り扱い規模が大きいというにすぎません。なんとなく,トヨタ車が安心というようなものです。いや,トヨタ車は一つの会社の製品ですので,会社として品質や技術の管理をしていますが,築地市場は雑多な業者の集合に過ぎず,市場として品質や技術を保証してはいないと思います。

 雑多な業者の集合では,農産物などの地域ブランドがあります。そして,ブランド価値を維持するために,生産方法などのルールを定めるなど努力しています。その地域というだけでブランドを標榜することはできませんが,築地ブランドを維持するためにルールを定めて努力しているのでしょうか。もちろん,個々の店は努力していると思いますが,築地市場としてはないでしょう。

 また,「築地ブランド」は青森では通用しないように,料理店や小売店にとっては,極めてローカルなブランドです。とはいえ,観光客相手では全国的といえなくもありません。ただし,場外市場に海鮮丼を食べにくる観光客相手ですので,市場の機能とは無関係です。京都の寺社観光客が,仏教にさほど興味がないのようなもので,JRが利用する京都ブランドは仏教とは無関係です。

 結局,小島座長が評価している「築地ブランド」とは,鮮魚を扱う市場や卸売り業のブランドではなく,観光資源としてのブランドです。それは報告書案のトーンにはっきりと表れています。「市場の歴史を物語る建造物」,「築地周辺に豊富な観光資源が存在」という記述が続き,ずばり「築地は、東京の観光拠点である。」と言い切っています。食の物流拠点としては,取り扱い量半減を強調するなど,懐疑的です。小島座長にとっては,築地市場は集客力のある収益施設なのでしょう。報告書案には次のような記述もあります。

報告書38ページ
仲卸が築地市場の中心である。

 市場には,仲卸以外の業者もいますが,なぜ仲卸が中心なのかというと,一心太助さながらの江戸っ子気質の威勢のいいイメージを観光客に与えるからでしょう。確かに,観光資源の役者としては仲卸が主役です。ただし,市場の機能としては,仲卸も大卸も買い付け人も同等で,だれが中心ということはありません。あえて中心と言うならば,主役ではなくて映画監督に相当する東京都卸売市場築地市場の職員が妥当かと。