5年相対生存率100%の意味

 前の記事の続きです。専門家なら明白なことかも知れませんが,素人なので,5年相対生存率100%の意味を一から考えて見ました。 

 甲状腺がんの検診が増え,早期発見によって患者数も増えていて,5年相対生存率が向上していると聞けば,早期発見と治療の効果によって甲状腺がんで死ぬ人は減っているような印象を受けます。

 その印象が正しい可能性もあって,その場合は治療の効果によって,5年相対生存率が向上していることになります。向上しただけでなく5年相対生存率が100%となったということは,甲状腺がんで死ぬ人はゼロに近くなったことを意味します。甲状腺がん患者と全人口のの5年生存率が同じ,即ち,甲状腺患者の死因は甲状腺患者以外の集団と同じだと考えられるからです。これは,検診や治療が成功した理想的な状況と言えます。

 ところが,残念ながら韓国の状況はそれとは違います。全人口当たりの甲状腺がんの死亡者にはほとんど変化がないからです。その意味するところは,治療しなくても死なない人を甲状腺がんと診断する過剰診断と言われています。異論もありますが,素人目にも過剰診断に見えます。別の可能性としては,死ぬ可能性のある甲状腺がん患者が増えているけれども,ちょうどそれを相殺するように治療効果が向上したということも有り得ます。ただ,そういう偶然の一致は極めて考えにくいです。多分,そのような治療の記録もないでしょう。

 この場合の5年相対生存率が100%,つまり甲状腺がん患者と全人口のの5年生存率が同じということは,次のようなことを意味すると思います。100%になる以前は80%というような数字でしたから,甲状腺がんと診断された人は,診断されない人よりも死ぬリスクが高いわけです。つまりリスクの高い人を見つけ出すという診断の目的を果たしていました。しかし,診断されない人とリスクが同じで,しかもそれが治療の効果ではないとすれば,ランダムに選び出しているのと何ら変わらないといえます。診断になっていないのです。

 内容的に繰り返しになりますが,下図はその説明図です。左側は,5年相対生存率が100%以下の状況です。赤破線の範囲の甲状腺がんと診断された集団には甲状腺がんで死ぬ人が比較的多く含まれています。そのため,5年相対生存率は100%より小さくなります。

 この状態から,診断の精度が向上して今まで見つけられなかった甲状腺がんで死ぬ人も発見できるようになれば,赤破線の範囲が広がります。これだけだと,5年相対生存率は下がってしまいますが,治療の効果で死者がほとんどいなくなった状況を真ん中の図は示しています。甲状腺がんで死ぬ人がほとんどいなくなったので,5年相対生存率は100%近くになります。

 右側は過剰診断を表しています。左側の状態よりも甲状腺がんと診断される人は増えていますが,それは治療しなくても死なない人です。甲状腺がんの死者は以前と同じように存在しているにも係わらず,5年相対生存率が100%になったわけですから,全人口に占める死者の比率と甲状腺がん患者集団に占める死者の比率は同じです。つまり全人口から無作為抽出して甲状腺患者としているのと結果は同じになります。

 5年相対生存率は,治療しないと死亡する可能性が高く,診断が明確に出来る病気の治療効果を示すには適しているのかもしれませんが,甲状腺がんには向いていないような気がします。