子孫のために美田を買わず

実は大変なんです……東京都内で600坪以上の大豪邸に住む人たちの「暮らし」と「苦悩」豪邸生活の意外な現実
現代ビジネス
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49130

酒井氏の収入はほとんどすべて、土地の維持とローン支払いと税金に消えてなくなるので、貯金は増えない。贅沢もできないが、「それでもこの土地が維持できればいい。そういう人生ですから」と酒井氏は言う。

 没落した資産家が資産の維持に苦労しているという話はよく耳にします。「そんな苦労までして維持するのは何故。処分すればよいのに」と思う人も多いと思いますが,「先祖代々の土地だから」という時代がかった理由ぐらいしか私には思いつきません。まさか,土地を処分すれば,ご先祖様の祟りがあるなんてことはないでしょうけど,「そういう人生ですから」と言われると,悲壮な使命感みたいなものを感じますね。

 たいていの場合は,土地を利用すれば経済的な利益を生じます。土地には生産性があります。ただし,単なる宅地では,維持費がかかるだけです。宅地は生産手段ではなくて,生活のための消費といえます。資産家が維持費がかかる広大な宅地を保有しているのは,それ以上に生産をしており収入があるからです。広大な土地や豪邸には,それとバランスする収入があるわけです。

 当然,収入が減れば収支のバランスをとる必要が出てきます。リンク先の資産家も消費を控え慎ましい生活をおくってバランスを取られています。ところが,土地だけは例外なのですね。現在の収入に見合った宅地に縮小すればよいのに,何故か土地だけは維持しようとしています。その合理的な理由は述べられておらず,「先祖代々の土地だから」を暗示しています。

 どうも,いまだに先祖代々の土地を売るなんてもってのほかという倫理観が生き残っているようですね。下記のリンク先は,「教えて!goo」のQAです。Qは歴史ある農家の夫婦が広大な土地の維持に困り売却しようとしたら,高齢の叔母が難色を示したので,どうすべきかというもの。Aの一部引用していますが,まるで戦前の話のようです。

先祖代々の土地の売却って、罪ですか? 教えて!goo
http://oshiete.goo.ne.jp/qa/6776072.html
「ご先祖様が残してくれたもの」は、自分のものであって自分のものでないと思います。
ご先祖様と一緒に、その地域共同体のみんなで守ってきたものですよね。
また、家を継いだ当主だけでなく、その一族全員で守ってきたものだと思います。

今まで一生懸命、戦後の苦しい時も不況の今まで、守ってきた者、それを見知っている者にとって、辛さを知らない世代があっさり(何十年何百年に比べたら)売却を決めたとなったら、抵抗感を抱くのは当たり前と思います。

長い歴史がある土地を受け継ぐということは、単に財産を受け継ぐだけではすみません。
やはりそこに積み重なった歴史、先祖の思い、ルーツを受け継ぐことだと思います。
土地の守り人となってほしい思いが、強いことも事実だったとおもいますよ。

 先祖代々の歴史ある土地にはご先祖様の霊魂が宿っているので,土地の守り人となるべきであり,ゆめゆめ売り飛ばすなかれ,という言い伝えでもあるようです。資産家の子孫は先祖の呪縛にとりつかれているようでお気の毒です。

 それでも,こういう考え方は,ある時代には合理性があったのかもしれません。特に農業のような土地と共同体に密着した生活では,なによりも土地は維持しなければなりませんからね。でも,時代も職業も変われば厄介ものに変わることもあります。時代の変化なんて読めませんから,自分の時代の価値観で子どもや子孫を縛るのは止めた方が無難です。歴史の重みや伝統も大事ですが,その継承を個人に負わせると色々と悲劇を生むのじゃないでしょうか。家に縛られた人間の悲劇なんてのは明治時代の小説のテーマだと思っていましたが,現代でもしぶとく生き残っているのですね。

 かと思えば,西郷隆盛は「子孫の為に美田を買わず」という詩を詠みました。「子孫に美田を残さず」とも言います。子孫に財産を残してもろくな使い方をしないという意味だと思いますが,そういうゴタゴタは私の身近でもあります。ぐうたら息子があっという間に親の遺産を使い切ってしまい,親戚とトラブルになったなんてのは良くあるんじゃないでしょうか。逆に生真面目な子孫は資産の維持で苦労します。いずれにしろ,ろくなことはありません。相続税を高くすれば,こういう悲劇も減るでしょうに。

 その点で,私の親は偉くて,ほとんど遺産を残しませんでした。それどころか,借金を残してくれましたので,感謝で涙が出そうになりました。もちろん相続放棄