遅れてやってきた「遅れ破壊」

低レベル放射性廃棄物輸送容器の不具合の原因究明及び再発防止対策について
http://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji08_hh_000041.html 

 原燃輸送内に設置した外部有識者東北大学等)による検討委員会の検証を経て、以下のとおり取り纏められた。

 推定原因:水素の影響により硬度の高いボルトで発生する脆性破壊の一種である「遅れ破壊」
 再発防止対策:「遅れ破壊」を生じない、より柔らかく適切な硬度を有するボルトへの全数取替え

 建築の世界では高力ボルトの遅れ破壊は昔話です。私は話に聞いただけで,直接の事故を経験したことはありません。既に歴史的出来事になっていたのです。あらためて調べて見ると,橋梁ではもっと古く,1964年に強度の高いF13T規格が制定された直後から発生していたそうです。使用されていたボルトは交換され,現在では,遅れ破壊が生じるようなボルトは生産されていません。

7-1 高力ボルトの遅れ破壊について
http://www.sasst.jp/qa/q7/q7-1.html

 それが,何故に今頃発生したのでしょうか。想像ですが,低レベル放射性廃棄物輸送容器は特殊な用途で,数も少なく,輸送中しか張力をかけないことから,今まで破壊が発生せずに,古いものが生き残っていたのかもしれません。橋梁や建築の世界には周知されていた遅れ破壊の情報も,特殊な分野には伝わりにくそうです。例えば,ファンヒーターなどのリコール情報も,人里離れた僻地で古い製品を大事に使っているような人には伝わらないかもしれません。

 また,一時期は良く目にしたファンヒーターのリコール情報は最近は見かけません。高力ボルトの遅れ破壊は私の世代より上では常識ですが,若い世代はどうでしょうか。そもそも,問題となるボルトは生産されていませんから知っている必要もありません。すでに過去の問題になっていると言えます。過去の問題になれば注意喚起情報も少なくなります。そのため,注意喚起情報が盛んに行われている時期をすり抜けて生き残ってしまった不具合はかえって見つかりにくくなってしまいます。

 原子力産業の輸送容器メンテナンス部門は,僻地に住む物持ちの良い人のようなものではないでしょうか。一般的な量産品なら1年間で出尽くす不具合が,特殊で僅少な特注品では10年間かかるかもしれません。他分野の量産品で発せられたリコール情報を見逃して,時限爆弾を抱え込むようなこともありそうです。