注目の事件の影響

 ある会社の社員が事件を起こしたとします。その社員だけの問題ではなく、会社の体質に問題があるかもしれないので全社員について詳しく調べてました。すると何たることか、ほかにも悪事を働いていた社員がいたのです。これは会社の体質の問題と言えそうな気もしますが、どうでしょうか。

 今度は、ある県で泥棒が捕まったとします。その泥棒個人の問題ではなく、県民性に問題があるかもしれないので、全県民について徹底的に取り調べをしました。すると驚いたことに、何人もの泥棒がいたのです。ただ、これを県民性の問題というには証拠が不足しているように思えますが、どうでしょうか。

 修羅の国と言われる西日本の某県は当然のこと、東北地方の朴訥な住民(これはイメージだけです)の多い県だとしても、県民全員が善人で犯罪者が一人もいないなどということは普通、だれも期待しません。しかし、会社ということになると、犯罪者が一人でもいると大問題で、全社員が善人であることが期待されます。社員が事件を起こすと、社長は「たった一人のために会社の信頼が損なわれた。二度とこのようなことを繰り返してはいけない」と当然の訓示を垂れます。

 このように、会社員と県民に期待されていることには随分違いがあります。しかし、犯罪人の比率は県でも会社でも同じでないと、計算が合いません。一定比率の犯罪人は会社にも存在します。従って、会社の体質を問題にするのなら、犯罪人の存在ではなくて、犯罪人の比率を見なければなりません。平均よりも高くて初めて、組織的な問題を疑うべきでしょう。

 しかし、ことはそれほど簡単ではありません。実際に犯罪人の調査を徹底的に行うと、多分、平均と言われるものより高くなります。なぜなら、平均というのは徹底的に調査したものではなく、発覚した犯罪に過ぎないからです。徹底調査は隠れていた犯罪も明るみに出してしまいます。スクリーニング効果です。

 以上をまとめると、もし、社会の注目を浴びる事件を起こしてしまい、会社の体質が疑われると、徹底的な調査が求められ、その結果、今まで隠れていた不祥事も明るみに出ることになります。そして、「やはり、会社の体質だったのだ」と言われることになります。これは、本当に問題のある会社だろうと、平均的な会社でたまたま起こった事件だろうと、ほぼ必然です。だから不祥事は怖いといえます。

 もちろん、たまたま起こった事件だとしても、事件を起こしたことは事実ですから、会社の言い訳は通用しません。ただ、外部の人間は冷静に会社や業界の体質を見極める必要があると思います。マンションを買い控えるなどというのは過剰反応のような気がします。