「過剰診断であっても,がんを早期発見・早期治療している可能性」とは

 福島県の検討委員会の「甲状腺検査に関する中間取りまとめ」の次の記述を最初読んだ時には矛盾めいているように感じました。

過剰診断が起きている場合であっても,多くは数年以内のみならずそれ以降に生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりするがんを早期発見・早期治療している可能性

 過剰診断を「治療しなくても症状を起こしたり、死亡の原因になったりしない病気を診断すること」と定義すると,がんを早期発見・早期治療するのなら,それはもはや過剰診断とは言えないように思えるからです。しかし,それは過剰診断かどうかは統計的にしかわからず,個々の事例では分からないということを失念したいたための勘違いでした。それについては専門家のNATROMさんが解説しています。

過剰診断とはなにか
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20150324#p1

 記事で説明してある乳がん検診の例では,何らかの症状を自覚してから診断された対象群と比較して検診を行った群では,2名の乳がん死の減少が有ったと同時に,乳がんと診断されたが乳がんではなかった人が3名増えています。つまり,早期発見・早期治療の効果と過剰検診が同時に起こっています。自覚症状のない人にも広く診断を行い,かつ診断の感度を上げれば,早期発見・早期治療の効果も上がります。しかし,その反面で治療の必要のない人を過剰診断したり,過剰治療することも増えてしまいます。

 このような過剰診断とがん死を減らす有効な診断は分離できないという事情から,過剰診断のない有効な診断方法を提案するのは不可能です。過剰診断と診断効果の総合的な評価で妥当な診断を決めざるを得ません。しかし,両者は同じ尺度で測れませんので評価は非常に難しいものになります。SIVADさんは「代案の検査や治療の具体的提案がないため,過剰診断論は退けられた」といいますが,実際には退けられていませんし,過剰診断の部分があるとしても,代替提案は簡単ではありません。

 中間取りまとめが述べているのは,NATROMさんが説明している乳がん検診のように,過剰診断が起きていると同時にがん死を減らす効果の可能性もあるということだと思います。その可能性を検証するには,乳がん検診のフォローアップのような長期的な検討が必要だということでしょう。その結果,乳がん検診のように,検診無しの場合よりもがん死が減少する可能性も有ります。ただ,現在までの短期的な結果ではそのような効果は見いだされておらず,過剰診断を増やしているだけの可能性が高いという指摘委員会であったということだと思います。

 もう一つ注意しなければならないのは,過剰診断と被ばくの影響はまた別の話だということです。被ばくの影響がなかったとしても,前述の様に甲状腺がん胃がんや肺がんのようにスクリーニング検査でがん死を減らせる可能性もあります。SIVADさんが「・甲状腺検査の実際」以降で引用している記述は,有効なスクリーニング検査についてのものです。福島の検査で見つかった甲状腺がんが過剰診断ではないとしても,被ばくが原因かどうかは分かりません。

 被ばくが原因なのかは,被ばくの無い地域との比較が必要ですが,ご存じのとおり環境省が行っています。その結果は差が無く,今のところ被ばくの影響は見いだされていません。ただし,発見されたがんが過剰診断による心配のないものであるのか,将来がん死につながるようなものかは,簡単には分からないということでしょう。

 まだ被ばくの影響は見いだされていませんが,少ないとはいえ将来生じる可能性が無いとも言い切れません。また,被ばくの影響はなく,スクリーニング検査で早期発見,早期治療が可能になり,甲状腺がん死が減る可能性も有ります。可能性はいろいろです。