書いてないことが見えてしまう病

福島の甲状腺検査で過剰診断論が退けられた理由 ー 赤の女王とお茶を
http://d.hatena.ne.jp/sivad/20150522/p1

 第19回委員会の資料のどこにも,過剰診断論が退けられたとは書いてありません。次に要約を示しますが,たった3頁なので原文を読んだほうが正確かと思います。私にもSIVADさんのようなバイアスがないとも言えません。

(私の要約)
 現時点では,被ばくによる過剰発生か過剰診断か判断できないので,現行の検査を継続していくべき。
 検査の実施に当たっては県民の同意を得て実施しているという方針のもと,
 ・検査は利益のみならず不利益も発生しうること
 ・甲状腺がんは発見時点での病態が必ずしも生命に影響を与えるものではないこと
を分かり安く説明すべき。 

 さて,SIVADさんが示している根拠のほとんどは,中間取りまとめにも記述してある

過剰診断が起きている場合であっても,多くは数年以内のみならずそれ以降に生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりするがんを早期発見・早期治療している可能性

 についてのものだと思います。つまり,現状よりも検査を増やせば,有意義な早期発見・早期治療ができる可能性について述べているだけです。今回の事故による被ばくと検査で発見された甲状腺がんの関係については何も示していません。

 どの程度の検査が妥当かは極めて難しい問題であって,簡単に示せるとは思えません。たまたま原発事故のせいで検査を増やしたため,生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりするがんを早期発見したという可能性もあります。しかし,そのことと原発事故による被ばくが発見されたがんの原因であることとは別問題です。もし,検査を増やす効果があったとしたら,福島以外の全国でも増やしたほうが良いというだけかもしれません。事故による影響と言うためには,同じ程度の検査で被ばくのあった地域とそれ以外の地域でがん発生率の差がなければなりません。

 なお,日本甲状腺学会による「バセドウ病131I 内用療法の手引き」を引用して,低線量のほうが発がんリスクが高いこともあり得るとSIVADさんは述べています。しかし,手引きに書いてあるのは,バセドウ氏病患者の治療では,大量のヨウ素131を用いて甲状腺組織を死滅させてしまえば,再発の母地が少なくなるという意味で,手術で組織を出来るだけ除去するのと同じ意味と私には思えます。組織が同じだけあれば低線量で発がんリスクが増えるとは思えません。そもそも,ヨウ素131治療では80-100Gyという被曝量であり,広島原爆の0.1Gyやチェルノブイリ事故の1Gy以下とう被曝量より遙かに大きいと説明されています。福一やチェルノブイリ事故の被ばく程度では晩発性の発がん影響があったとしても,組織を死滅させるなんてことはあり得ないわけですから,全く別の話でしょう。