注意すべきは何かーリスクホメオスタシス

 読売3月13日の記事

 2月に関東甲信を中心に2度にわたって降った記録的な大雪の際,都内で雪が原因で起きた車の人身事故のうちタイヤの種類が判明した26件で,半数以上の15件が雪用装備なしのノーマルタイヤで事故を起こしていたことが警視庁のまとめでわかった。
 同庁は,大雪に見舞われた2月8日〜10日,同14日〜16日に都内で多発した人身事故計237件を分析。雪が原因の事故は47件を数え,車に巻き込まれた歩行者を含め,52人が負傷した。事故にならなくても,坂道などで車が空回りして立ち往生する姿が目立った。
 この中でタイヤの種類が判明した26件のうち,8件がスタッドレスタイヤ,3件でチェーンを装着していた。残りの15件はノーマルタイヤのままだった。
 装備なしの場合やはりスリップ事故が目立ち,8日朝,港区で乗用車が歩行者の40歳代男性に接触。14日午後には,武蔵野市で乗用車が前の車に追突事故を起こして運転手に軽傷を負わせた。

 この記事の書きぶりから受ける印象は,ノーマルタイヤは雪道での事故が多く,スタッドレスかチェーンを付けるべきだと警視庁は注意している,です。しかし,私がこの記事に出てくる数字から受けた印象は,スタッドレスやチェーンの事故が非常に多いということでした。

 どちらが事故を起こしやすいかは,事故件数だけでなく母数で除した事故率が必要ですがこの記事には書いてなく,判断出来ません。しかし,東京都内という条件からすれば,ノーマルタイヤが殆どで,スタッドレスやタイヤチェーンを装着していた車は極僅かしか走っていなかったのではないでしょうか。にもかかわらずほぼ半数の事故を占めているとしたら,雪用装備をした方が危険と言えそうです。

 実はその可能性が有るのですが,装備そのものの問題ではなく,ドライバーの装備への「過信」という心理的問題でしょう。スタッドレスだから安心だと注意が疎かになったのかも知れません。スキー場に向かう道路上では,都会のナンバーの4駆オフロード車が結構事故を起こしています。雪道になれていない都会のドライバーは4駆を過信して事故を起こすことが良くあるそうです。4駆は雪道の走破性は高く,坂もグングン登るのですが,ブレーキングで止まる距離は2駆とさして変わりません。むしろ重量の有るオフロード車が不利な場合も有ります。調子に乗ってスピードを出すとかえって危険と言うことになります。

 交通安全の世界ではワイルドという人が提唱したリスク・ホメオスタシス理論というものが有ります。道路施設や車の装備上の交通安全対策をすれば,ドライバーはそれに頼り,結局安全性は変わらないという心理に関する理論です。最近では,自動停止装置に頼ってドライバーが注意散漫になるとして国交省が認可に消極的だったということもあります。しかし,リスク・ホメオスタシス理論は安全装備を否定するものではなく,ドライバーの心理的対策も必要だと理解すべきでしょう。

 読売も警視庁の発表を鵜呑みにするのではなく,装備を過信するなというコメントでも添えれば良い記事になったと思います。期待するのは無理か。