大根の面取り

■ TV番組の間違い

 おでんの大根は角の面取りをします。理由は、煮崩れを防ぐためでこれは良く知られています。それ以外に汁を良く染み込ませる効果もあるそうです。面取りすると大根の表面積が増えるのでよく染み込むそうです。と、この間見た番組で説明していました。

 いやいや、面取りすると表面積は明らかに減りますよね。

■ TV番組だけじゃなかった

  まあ、TVのことだからこの程度の間違いはよくあります。ところが、ネットで検索してみても、同じことが書いてあることが分かりました。こればかりは多数決で決めるわけにはいきません。しつこいですが、面取りすれば表面積は減ります。これは間違いありません。

 

http://大根を面取りする理由は?簡単なやり方を覚えて時短&味わいアップ! - macaroni (macaro-ni.jp)

 

http://大根の面取りをする理由とやり方・大根を美味しく煮るコツ│食卓辞典 (oe32media.com)

■ 面取りした方が染み込みやすいのは本当らしい

 ただ、料理のプロがほぼ一致して言っているので、面取りした方が汁は良く染み込むのは本当なのでしょう。面取りで表面積は明らかに減りますが、体積も減りますので大根全体に染み込むのが早くなるのかもしれません。面取りしないと三角形の2辺から染み込んだ煮汁が残りの1辺(面取りで出来る面)に達してからやっと、大根内部に染み込み始めますが、面取りすれば、最初から、そこに染み込むことができます。大根表面から大根中心までの距離の最小値は面取りした方が短くなるので、早く染み込みそうです。

  煮汁を染み込ませるには、面取りの他に切り込みを入れる方法がありますが、こちらは、確かに煮汁に触れる表面積を増やしますし、大根表面から中心までの最小距離も短くなります。

 世の中に流布している説の中には、明らかに間違えているものがあります。その一つとしてこのブログを書き始めました。「料理する人にとっては、煮汁が染み込めばよいのであって、その理由が間違っていても別に気にしないのだ」というまとめにしようとしました。

■ 面取りしない方が染み込みやすくなる場合

  ところが、それほど単純ではありませんでした。ラジエータの放熱板は、大根の角に相当するようにも見えます。放熱板は空気に触れる表面積を増やして放熱を早くします。大根の面取りする角を一枚の放熱板と見做したら、面取りしない方が染み込みやすくなるのでしょうか。とがった角が沢山ある方が、煮汁が良く染み込みそうな気もしてきます。

 しかし、料理のプロの経験ではそうではありません。何故なのでしょうか。その理由は、熱伝達率と熱伝導率の違いを考えると分かります。熱伝達率とは壁と空気、壁と水といった2種類の物質間での熱の伝わり易さで、熱伝導率とは、1つの物質内の熱の伝わりやすさです。それに倣うと、煮汁伝達率は煮汁と大根表面での煮汁の染み込みやすさで、煮汁伝導率は大根内部での煮汁の移動しやすさと言えます。

 放熱板の材料は熱伝導率が大きく熱の伝わり易い材料でできています。一方、空気と放熱板の間の熱伝達率はそれほど大きくありません。なので、ネックとなっている放熱板と空気の接触面積を増やすのが効果的です。

 それに対して大根の煮汁伝達率と煮汁伝導率には大した差がないのでしょう。大根の三角形の角(放熱板に相当)を増やして、煮汁の三角形への流入を増やしても、三角形から大根内部への流入量が増えなければ効果ありません。ネックは三角形の底辺(面取りで出来る面)にあるのです。

 現実には存在しなさそうですが、面取りした切断面も非常に煮汁が通しにくくなる野菜なら、面取りしないほうがよく染み込むかもしれません。