予測と予想 「シグナル&ノイズ」

 「シグナル&ノイズ」では,「予想」と「予測」の違いを次の様に説明しています。

・予測(prediction)とは,いつ,どこで地震が発生するか限定したものをいう。(例)6月28日,日本の京都で大地震が起こるだろう。

・予想(forcast)は,長期間にわたる確率論的な事象を表す用語である。(例)この先30年間に南カリフォルニアで大地震が起きる確率は60パーセントである。

アメリカ地質調査所の公式な立場は「地震は予測(prediction)はできない」というものだ。しかし,予想(forcast)はできる。

 日本でも地震調査研究推進本部全国地震動予測地図を公開していて,これは「今後30年間に震度○○以上の揺れに見舞われる確率」なので「予想」です。

地震動予測地図  地震調査研究推進本部
http://www.jishin.go.jp/evaluation/seismic_hazard_map/

 実際のところ,一般の人がこの種のハザードマップを見ても,どうしてよいか分かりません。自分の住む地域の危険度が高いと分かったところで,いつ起こるのか分からないので避難はできません。いつ起こっても良いように引越するのは,仕事やら何やらで大変な負担になります。それに,誰もが引越を始めたら,危険地域を無人化することになり,非現実的です。結局,建物やインフラを耐震化したり,非常用の備蓄をするという対応しかなく,それは危険度が低い地域でも必要です。もし,危険度の低い地域ではそのような対策は不要だと誤解する人がいたとしたら,ハザードマップは有害とすら言えるのじゃないでしょうか。

 一般の人が期待していて実際にも役に立つのは,地域と日時を限定した「予測」しかありません。しかも,極めて高い精度が要求されます。競馬の予想のような通常の予想は100%当たらなくても役に立ちます。1回や2回外れても,年間を通せばプラスになれば十分ですからね。資金が潤沢で何度でも挑戦できて負けを取り戻すチャンスが有れば,確率的な予想でも有用なんですね。実際にカジノの確率的予想で利益を上げるという取り組みは何度か成功しています。(ただし,カジノ側もすぐに対策をするので,継続的には無理です。さもなければカジノは潰れてしまいますからね。)

 ところが,被害地震に遭う可能性は一生に一度あるかないかです。その一回の予想を外せば,破産でゲームセットですから,確率的な予想は殆ど意味がありません。また,地震の予測は地震が起きない時期や地域もセットで行う必要があります。避難先をどこにするか,また避難解除の時期を決める必要があるからです。避難には大きな負担が伴いますから,不確実な予想で避難指示を出したり,解除できる政治家がいるのでしょうか。イタリアのライクラの二の舞になることも厭わずにです。警告を出すということはその解除もしなければならず,それも大きな危険を伴う博打になってしまいます。

 果たしてその決断ができるのか疑問ですが,地震防災対策強化地域判定会東海地震に関して「予知情報」を出すことになっています。予知情報が出されると,地震災害警戒本部が設置され,津波やがけ崩れの危険地域からの住民避難や交通規制の実施、百貨店等の営業中止などの対策が実施されます。誤解のないように繰り返しますが,地震が起きてからの対策ではなく,「予知情報」でこれらの対策を行なうことになっているのですそして,いずれ解除しなければなりません。

 凄い,度胸だと思います。

気象庁 地震防災対策強化地域判定会(判定会)
http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/tokai/hellojma_index.html