無意味な診断


 えーと,「5年相対生存率」の意味が分からないので,先ず調べて見ました。

5年相対生存率(ごねんそうたいせいぞんりつ)
あるがんと診断された場合に、治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標。あるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体*で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表します。100%に近いほど治療で生命を救えるがん、0%に近いほど治療で生命を救い難いがんであることを意味します。
 * 正確には、性別、生まれた年、および年齢の分布を同じくする日本人集団。
http://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/5year_relative_survival_rate.html

 なるほど,これでやっと,NATROMさんのツィートを理解することができます。例えば,日本人全体では5年後に1%が死亡し,一方で甲状腺がんと診断された患者さんが100人いて,その内10人が5年間で死亡すれば,5年相対生存率は,(90÷100)÷(99÷100)=90÷99=0.91です。

 もし,がん検診がまったく無効で,過剰診断によって,健康つまり死なない人100人が甲状腺がんと診断されてがん患者に加われば,5年相対生存率は,(190÷200)÷(99÷100)=0.96と「改善」されます。*1したがって,診断の有効性の判断に,5年相対生存率は適しません。

 これに対して「死亡率」は,ある期間の人口10万人のうちの死亡者数です。この場合の分母はがん患者も健康な人も含む10万人で変わらず,分子も死なないがん患者がいくら増えても変わらないので,死亡率は変わりません。

 また,「致死率」は分母ががん患者10万人になりますので,死なない患者が増えれば数字上は「改善」します。これは,5年相対生存率と似たような関係です。

 私が,このような数字のカラクリを初めて知ったのは,近藤誠氏のがんもどき仮説でした。たしか,乳がん検診でがんを早期発見すれば,「致死率」は「改善」するので検診を推奨しているが,全人口に対する「死亡率」は全く変わっておらず,検診はがんもどきを見つけているだけだという主張だったと思います。最近の近藤誠氏はおかしなことになっていますが,その時は,なるほどと目から鱗の気分でした。随分昔の話ですけどね。

 さて,韓国における甲状腺がんの5年相対生存率のグラフを見ると,ほとんど100%になっています。これは,甲状腺がん患者と韓国人全体の5年生存率はほとんど同じで,甲状腺と診断された集団も,診断されていない集団も5年相対生存率に違いはないということです。ここまでくると最早,甲状腺がんという診断はほとんど無意味に思えます。いわば,陽性反応的中率(陽性になった人のうち本当に病気の人の割合)が有病割合(全体のうち病気の人の割合)と同じになる検査のようなものじゃないでしょうか。5年相対生存率以外に違いはあるかも知れませんが。

【6/23追記】
 本来の目的である治療効果を現わしているのなら,無意味ではないわけですが。

*1:1より小さい分数の分子と分母に同じ正の数を加えれば必ず大きくなる。A>0,B>0,C>0,A>Bならば,B/A<(B+C)/(A+C)