「二つの封筒の問題」の解説の誤り

■ 昔考えた「二つの封筒の問題」

 十年以上前に、次の「二つの封筒の問題」が話題になりました。

二つの封筒の問題

二つの封筒があり、1つにはもう一つの二倍の金額が入っている。

一つの封筒を選んだ後で、もう一つと交換できる。

選んだ封筒にX円入っていたのなら、もう片方は1/2X円か、2X円であり、その確率はどちらも1/2である。交換した場合の期待値は、1/2・1/2X+1/2・2X=1.25X円となり、

交換すれば得する。しかし、もう一方の封筒を選んでも同じことが言えるので、パラドクスである。どこに間違いがあるか?

 問題文の説明のどこが間違っているのか分かるまで、数日、悩みましたが、金額の上限を無視しているんですね。(上限の有無は本質的でないことを【追記】に記載しました。)

例えば、二つの封筒の金額の組み合わせが、(1万円、2万円)、(2万円、4万円)の2通りで、その確率は同じとします。選んだ封筒に2万円入っていれば、もう一方は1万円か4万円なので、期待値は2万5千円で確かに1.25倍です。しかし、1万円か4万円なら、もう一方の期待値は2万円で、倍か半分になります。

 つまり、問題文の記述では、Xが2万円だと決め付ける間違いを犯しています。Xの可能性は、1万円も4万円もありますが、それを無視しているわけです。無視せずに、総ての可能性を考慮した時の、最初の封筒の金額Xの期待値と、もう一方の封筒の金額の期待値を計算すれば同じになるのは明白のようですが、ちゃんと計算すると次の通りです。

各金額の確率は、

 1万円:1/2×1/2=1/4

 2万円:1/2×1/2+1/2×1/2=1/2

 4万円:1/2×1/2=1/4

従って、選んだ封筒に入っている金額の期待値は、

 1✕1/4+2×1/2+4×1/4=2万2500円

一方、封筒を交換すれば、

1万円→2万円、2万円→1万円、2万円→4万円、4万円→2万円の確率は総て1/4なので、交換後の金額の期待値は、

 (2+1+4+2)/4=2万2500円

なので、交換前と同じです。

 つまり、金額が最小値の場合は、交換すれば2倍に、最大値の場合は半分に、それ以外は1.25倍になりますが、どの場合なのかは分かりません。そこで、交換倍率の期待値のさらに期待値を計算すると1になります。仮に、上限がわかっていれば、上限の半分以下ならば交換した方が得です。

 

■ 一般化

 以上が昔、考えたことですが、今回、一般化してみました。次の様になります。

 

 金額の組み合わせは、(a万円、2a万円)、・・・(a・2n-1万円、a・2n万円)のn通りで、その確率を、P(1),・・・・P(n)とする。

 選んだ封筒の金額の期待値は、

0.5a{∑P(i)2i-1 +a∑P(i) 2i }=0.5{∑P(i)2i-1 +2a∑P(i) 2i-1 }

=1.5a∑P(i)2i-1 

 左辺のかっこ内の第1項は、封筒の低い金額の和で、第2項は、高い金額の和に相当する。ここで、封筒を交換するのは、第1項と第2項を交換するだけなので、交換しても金額の期待値は変わらない。(下図参照)

なお、上限でも下限でもない場合に交換した時の倍率はP(i)により、1.25倍とは限りません。

 

■ ネット上のさまざまな解説

 さて、今回、あらためて、この問題の解説をいくつか読んだのですが、金額の上限に触れていない解説が多いです。それでは、交換すると1.25倍になると期待できることを否定できませんが、誤った否定の仕方のものがありました。例えば、次のような解説です。

 封筒を交換した場合の金額の期待値を0.5(x/2)+0.5(2x)=1.25x とするのが間違いである。正しくは、次のように考えるべきである。

 封筒の中身をそれぞれx、2xとする。

  1)受け取った封筒がxならば、もう片方の封筒の中身は2x

  2)受け取った封筒が2xならば、もう片方の封筒の中身はx

 封筒を交換した場合、前者はx円の得をして、後者はx円の損をする。

  e=0.5(2x-x)+0.5(x-2x)=0

 損得なしなので、交換しても金額の期待値は変わらない。

 この解説の誤りは、Xに具体的数値を入れてみると分かります。Xを2万円とすると、式の第1項は、選んだ封筒の金額が2万円の場合で、第2項は4万円の場合の交換した時の得失です。封筒にX円入っていた場合と2X円入っていた場合が入り混じっています。正しくは、

 e=0.5(2X-X)+0.5(0.5X-X)=0.25X

です。Xが上限でも下限でもないのならば、交換すれば確かに1.25倍になりますが、上限か下限の可能性もあります。

 そのほか、情報の非対称性とか、従属事象と独立事象の混同とか、多分関係ない理由が述べてあったりします。

 

■ 問題文の微妙な違い

 問題文を次の様に少し変えてみます。

二つの封筒の問題(お得バージョン)

ここに1万円か4万円が入った封筒がある。どちらの金額なのか、その確率は同じ1/2である。この封筒を2万円で買うか?

 もちろん、買うべきですね。「二つの封筒の問題」は、この全く違う問題と混同させているわけです。私も数日間、混同して、夜寝れなくなりました。

 

【5/30 追記】上限は関係ない。

  よく考えてみると、今回の一般化で、金額の上限は無関係だと分かりました。上限がなくても、交換した時の期待値は変わりません。

 金額ペア(a、2a)から、aを選ぶ確率と2aを選ぶ確率は共に1/2なので、選ぶ金額の期待値はa×0.5+2a×0.5=1.5aです。これを交換しても、2a×0.5+a×0.5=1.5aで変わりません。

金額ペアが有限でも無限でも、これは同じです。

 

 a円が2a円になる確率と2a円がa円になる確率が1/2であり、封筒に入っていたX円が2X円や0.5X円になる確率が1/2ではないのですね。

X(変数)がa(定数)である確率は1/2で、その時にもう一つの封筒に入っているのは、2aです。

X(変数)が2a(定数)である確率も1/2で、その時にもう一つの封筒に入っているのは、aです。

 上記の二つの文のX(変数)の値は違うのですが、言葉で表すとどちらも「選んだ封筒に入っている金額」になり、混同しますね。