「信用創造」が胡散臭く感じる理由

■ 飛行機の積載オーバー不安

 随分以前に那覇から渡嘉敷島まで飛行機で行ったことがあります。現在のRACの前身、南西航空(AWAL)の7人乗りぐらいの双発機でした。幸運にも見晴らし最高の助手席でしたよ。乗る前には、荷物と一緒に体重を計り、それで座席が決まります。バランスをとるためらしいです。

 南大東島行にも乗りました。こちらはもう少し大きな飛行機でしたが、やはり荷物と体重を計りました。南大東島の空港はすり鉢状の島の地形のため、気流状態によって着陸出来ず引き返すことがあるので往復の燃料が必要になります。積載する荷物が重いと燃料消費が早くなり海上に墜落してしまいます。そこで、荷物無という条件で載せることがあるためでした。ちょっと不安になりますね。

 しかし、よく利用する大きな飛行機では体重を量ったりしません。力士が集団で乗ることもありますが、大丈夫なのでしょうか。200人乗りの飛行機に力士が200人乗れば、影響があるかもしれませんが、現実にはその確率は小さいのでほぼ大丈夫です。人の平均体重が60kg、標準偏差が5kgならば、200人の総重量の期待値は60kg✕200=12000kg、標準偏差の期待値は、√(5×5×200)=70,7kgです。標準偏差は、一人分程度の重さにしかなりません。総重量が平均値12000kgから3人分の重さを超える確率は0.14%です。

 力士なら見た目で分かりますが、手荷物に金塊を忍ばせた乗客が200人乗ってくる確率もゼロではありません。しかし、航空会社はその可能性に備えはしません。何となく不安になりますね。

■ 銀行の信用不安

 私を含めた大抵の人は、銀行の「信用創造」でも似たような不安を感じるようです。子供の頃、「銀行は預かったお金を貸し出して、金利差で儲けている。」と学校で教えられました。これは間違いで、今では、学校でも「信用創造」を教えるそうです(ただし、信用創造とは言えない又貸し説らしい)。銀行は預かった現金を貸し出しているのではなく、貸出先の預金口座を作り、金額を書き込むだけです。預金口座からはいつでも現金が引き出せますから、銀行は手持ちの現金を持っていないと困るのではないかという不安になりますね。

 確かに、貸出先が1件だけなら、預金を全額、引き出される可能性は大きいです。しかし、多くの貸出し先が同時に引き出す可能性は極めて小さいことは、先ほどの航空機の例でもわかります。歴史的には、銀行の元になった金預かり業者が経験的に同時引き出しがないことに気づいたそうです。

 とはいえ、現金引き出しが全くないわけではないので、ある程度の現金を保有している必要はありますが、預金の金額の1割も必要ないようです。紙幣流通量は銀行預金残高の1/10以下しかありません。銀行の金庫にある現金はもっと少ないでしょう。制度的には銀行は預金額の一定比率以上の額を日銀当座預金に預けなければなりません。紙幣を発行しているのは日銀なので、日銀当座預金は現金と考えてよいでしょう。この比率は1%程度です。

・紙幣流通量 122兆円(2021年)

www.boj.or.jp

・銀行預金残高 1500兆円弱(2018年)

www.ifinance.ne.jp

 以上のように、銀行が保有している現金は、預金通帳に記載してある金額のごく一部でしかないのは事実で、議論するようなことではありません。にもかかわらず、銀行の預金には、現金の裏付けがあるという意見は根強いものがあります。確率の大数の法則が感覚的に理解しにくいからなんでしょう。「今は、皆さん全員に返せる現金の手持ちはありませんが、将来には返します」と言われると、「今から博打で儲けて返します」と言われているような胡散臭さが漂いますからね。

 銀行預金は、現金と交換しますという借用書であり、現金は物品やサービスと交換しますという借用書です。将来、価値あるものに交換するという約束を信用しているわけです。しかし、今現在、すべての借用書の約束を果たせるだけの現金、物品、サービスは存在しないのは何となくわかるのではないでしょうか。

 借用書の中には、同時には交換しないことを前提にしたものがあります。回数券の類です。ラッシュアワーの状態をみれば、発行した回数券すべてに同時に対応できる輸送能力が交通機関にはないのは明らかですね。