「眠り姫問題」ー「1/3」への違和感(その2)

  • ヒントを頂いた

 「眠り姫問題」について、ツイッターで少しやり取りがありました。といっても、相手の方からの疑問に私が答える一方的なものでしたが。そのうち同じ質問が繰り返されるなど様子がおかしくなってきたので打ち切りました。それでも最初の頃は、私の疑問のヒントになることがあったので、それに関する記事を書き始めていました。それがこの記事です。

 私の疑問とは、前の記事でも述べた「1/3」への違和感の原因です。以前に「賭けバージョン」を考えましたが、相手の方も類似の「クジバージョン」を考えていて、「1/2」になるはずとの意見でした。クジバージョンでは、コインの代わりに当たりの確率が百万分の1のクジを用います。ハズレの場合は眠り姫を1回だけ起こして「ハズレの確率」を質問します。アタリの場合は、1億回起こして、その都度、同じ質問をします。

 「質問された」という条件付きでのハズレの条件付き確率を計算すると、1%以下になりますが、百万分の1の確率でしか当たらないクジが質問の回数を増やすだけで99%以上になるはずがなく、おかしいというご意見でした。

 「おかしい」と言われても、アタリクジ100枚(1億/百万)とハズレクジ1枚の中から1枚抜きとれば、そういう確率になるわけですが、そこで、はたと気づきました。(ヒントを与えてくれた相手の方に感謝します。)おそらく、アタリクジであるかどうかを当てる問題ではなく、実際に賞金をもらえると考えられたのではないでしょうか。そして、1億回分の賞金をもらえるのではなく、1回分しかもらえないと。確かにクジは1枚しかないのですから当たっても1回しか賞金は払わないと考えるのが自然です。その場合にアタリの確率とは、賞金がもらえる確率と考えれば、百万分の1です。ただし、事前確率を質問しただけの自明過ぎるつまらない問題になってしまいます。問題のさまざまな設定は全く余計な目くらましに過ぎないことになります。これに対して、私が考えた賭けバージョンは、質問の都度、賞金を払います。質問される回数が多い方に賭けた方が有利に決まっています。これは条件付き確率の問題になります。

  • あいまいな問題

 よく考えてみれば、「質問された時にハズレ(表)である確率は?」という問は事前確率を尋ねているのか、条件付き確率を尋ねているのかあいまいなところがあります。条件付き確率の場合は「今行っている質問が、ハズレクジ(表)判明後の質問である確率は?」と尋ねると明確になります。また事前確率を尋ねたいなら、「実験開始直後にコインを振った時に表がでた確率は?」、「実験開始直後にクジを開いたらハズレであった確率は?」と言えば明確です。

 要するに、繰り返される質問を全部カウントするのか1回としか考えないかという問題だったのです。それは出題者が決めるしかありません。賞金は質問毎に支払われるのか、1回しか支払われないのかを回答者が議論しても仕方ありません。

 ちなみに、以前に次の「製品検査バージョン3」を考えました。

製品検査バージョン3

旧工作機械は、1/2の確率で合格品を作る。新工作機械はすべて合格品を作る。

コインを投げ表がでたら旧工作機械で、裏が出たら新工作機械で1個だけ製品を作る。その製品は、合格品であった。さて、コインが表だった確率は?

  この問題の場合に、条件付き確率を尋ねるなら「合格品が旧工作機械で作られた確率は?」で、事前確率なら「コインを確認した時に表だった確率は?」とでもすればよいでしょう。ただ、どちらかと言えば条件付き確率と解釈する人が多いようです。

 「眠り姫問題」ではコインを振ったのは1回だけですし、クジも1枚しかないので、事前確率感が強くなるのではないでしょうか。製品検査バージョン3もコインを振ったのは1回だけですが、条件付き確率の条件である合格品であることが意識されやすくなっています。一方、眠り姫問題では寝覚めが条件であると意識しにくいのかもしれません。

  問題は、1/2と考える立場の人でも明確に事前確率の問題だとは自覚していないらしいことです。前述したように事前確率なら、眠り姫の記憶消失や何回も質問する設定は、全く不要な情報ということになりますが、1/2の意見でも、その情報は必要と感じるらしく、明確に事前確率という立場の人はあまりいないようです。事前確率感は強いものの、明確な自覚がなく、奇妙な問題だと感じるようです。一方、「製品検査バージョン3」では事前確率感があまりないので、混乱しないのだと思います。「眠り姫問題」には「1/2」と答える人も「製品検査バージョン」だと[1/3]と答えます。そして両者は全く別の問題だと感じるようです。

 事前確率なのか条件付き確率なのか、どちらが問題文の解釈として妥当かという国語的な議論なら、数学的な議論は起きないはずです。どちらかに決めれば数学的には単純なので、議論の余地はありません。しかし、事前確率でもなく条件付き確率でもないパラドックスめいた奇妙な数学の問題のように思えるのですね。その結果、混乱するのではないでしょうか。少なくとも、私にはそういう混乱があったように思います。

 

【後書き的な雑文】

 以前に数学者の方が「1/2」と「1/3」の両方の立場があり得るけれども、ギャンブラーの立場なら「1/2」を採用する、と言われていて不思議でした。その時は、眠り姫が目覚めた時に行った賭けが全部成立する「賭けバージョン」が頭にあったので、ギャンブラーの立場なら「1/3」だと思ったからです。しかし1回分の賞金しかもらえない「クジバージョン」なら「1/2」ですね。

 これには、さらに続きがあります。ギャンブルが「表(ハズレクジ)」と「裏(アタリクジ)」のどちらかを当てる二択ではなく、300枚のチップを「表(ハズレクジ)」と「裏(アタリクジ)」に配分して賭ける場合、どのような配分にすべきかという問題です。困ったことに、どちらのバージョンなのか、胴元が教えてくれないあやふやなギャンブルなのです。あやふやで不確実な情報でも戦略を考えるのがギャンブルなので、最良の戦略はあります。

「眠り姫問題」ー賭けバージョン」にほぼ答えが書いてあります。