縦に引っ張ると、横にも伸びる

 

 

 瞬間的にポアソン比を連想しました。ポアソン比は、弾性体を引っ張るとその方向に伸び、直交方向は縮みますが、その比です。材料力学や構造力学の最初に出てきます。

ポアソン比 

 しかし、少し考えてみると、弾性体は縮みはするものの、布のようにたるんだりしわが出来たりはしませんので、無関係のような気がしてきました。そこで、大昔に習ったポアソン比について、ウィキペディアを眺めていると、面白い記述を発見しました。ポアソン比は負の値もありえるのですね。

ポアソン比

 つまり、縦に引っ張れば、直交方向の横にも伸びるという常識に反する場合があるのです。何故そんな奇妙なことがあるのかを説明した概念図もウィキペディアに示してありました。

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ウィキペディアの図

 学校で習った時には、ポアソン効果が何故起こるのかなんて考えもしなかったのですが、この概念図を見ると単純なことだと分かります。常識に反すると思えた負のポアソン比も不思議でもなんでもなくなりました。物質の幾何学的結晶構造によって、力を加えた方向以外にも変形が伝わるわけですね。そういえば、これを利用したおもちゃもありました。

仿生獸與伸縮球.AVI

マジックボール 投げると大きくなる不思議なボール 伸縮ボール

 

 ポアソン効果は、弾性体の結晶構造によるものだと分かったところで、布に戻ってみると、これもまた繊維構造ですので、引っ張った方向と直交方向にたるんだりしわがよるのも同じ理屈だとなんとなく分かってきました。ちゃんと考えると、次のようになるかと思います。

 布地の織り方は様々ですが、一番単純な縦糸と横糸でできた格子状の布を考えます。この布を下図Aの向きに引っ張ると、直交方向には縮むことが容易に分かります。ところが、図Bの向きだと、直交方向には変形しないはずです。実際に、手持ちのハンカチで試して見ると、図Aではしわしわになりますが、図Bではしわになりにくいです。それにしても図Bでも多少のしわが出来ます。それについては、引張力のバラツキが原因だと思います。図Cのように、ちょっとした原因で、引っ張られている糸の位置にズレが生じると、それに絡んでいる直交方向の糸がジグザグに折り曲げられて、縮むのでしょう。

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 実は、以上の説明は直交方向に縮むというもので、たるんだりしわがよる説明としては不足です。この点については、布はペラペラの二次元なので、面外方向に簡単に座屈するのだと思います。例えば、図Aの場合、主たる縦糸と横糸は共に引っ張り力なので座屈する要因はありませんが、縦糸と横糸で形作られるひし形の中にも糸くずが絡みついていれば、それが圧縮力を受け座屈します。あるいは、布の厚み方向の僅かな変形の差で面外方向の変形が引き起こされるのかも。