直観が外れた(バネの落下)

Togetter バネの落下
 このまとめの最初に出てくる動画を見て、直観的にフェイク動画だと思いました。時間をかけて考えだしてからもしばらくはそうだと思っていました。しかし、まとめをざっと読むと、どうも本当のようです。読むと言っても、数学的なことはほとんど理解できないのですが、他の人が実験撮影した動画も同じ動きをしていたのが決定的でした。そして、私が勘違いした理由がなんとなく分かってきました。私は、概ね次のように考えました。

■私の直観

 連続体のバネは面倒そうなので、手始めに簡単な質点モデルを考えました。質点数を増やして行けば、連続体の近似になると思ったからで、とりあえず。図に示すような3つの質点を、自然長(力が食わっていないときの長さ)ゼロで、質量もゼロのバネでつないだものを落下させる場合を考えました。手に持ってぶら下げて静止している状態では、下のバネの張力はmgで上のバネの張力は2mgです。手には3mgの力が加わっています。

 手を離した瞬間は、下の質点に食わる力は重力のmgとバネの張力-mgで釣り合っていますので動きません。同様に真ん中の質点も静止しています。しかし上の質点は、手の反力がなくなり、重力mgとバネの張力2mgだけが作用しているので、加速し始めます。

 微小時間Δt秒後には、上の質点はわずかですが下に移動するので、上のバネが少し縮み、張力も減ります。そのため、真ん中の質点に作用する力もつり合いが破れ、下向きに加速を始めます。しかし、下のバネは力が釣り合っていますので、まだ静止したままです。

 2Δt秒後には、真ん中のバネも縮むので、下の質点のつり合いも破れ動き出します。十分に短い2Δtを考えれば、上の質点は下の質点まで達していませんが、下の質点は動き出すということになります。

f:id:shinzor:20190509103448j:plain 以上の考察は、質点数を増やしても成り立つので、極限の連続体のバネも同じはずだというのか私の直観でした。連立運動方程式も簡単に書けるので、数値計算すれば結果は確認できるはずです。

■錯覚はどこか

 この考察のどこが間違っていたのかというと、おそらく、バネの張力はその長さに応じて、どの位置でも同じだという仮定が間違っていたのだと思います。言い換えれば、バネはどの部分も一様に縮んでいくという仮定です。建築物を串団子にモデル化して解く場合もそういう仮定です。バネ(串)上下の剪断力の変化という面倒なことは考えずに同じ時刻では同じと考えますので、疑問に思いませんでした。しかし、良く考えて見れば、バネの上端の動きが一瞬で下端に伝わるという仮定ならば、そのバネを多数つないだ場合も一番下のバネの下端も最初から動くのは当たり前です。結論を仮定した典型的な錯誤です。

 建築物の振動の場合は、比較的長い時間を考えますので、瞬時伝達するバネでも十分な近似になりますが、一瞬のバネの落下を考えるような場合は適当なモデル化ではないのでしょう。例えば、バネを両手で引き伸ばして、右手を離せば一様に縮むかというとそうではなく、右から左に折りたたむように張力ゼロが伝わっていくのだと思います。両手を同時に話せば、両端から折りたたむように縮んでいき、最後に真ん中が張力ゼロになるのでしょう。

■いろいろ見解があるらしい

 ところがですね、バネの下端はバネが縮みきるまで動かないという説明と僅かに動くが重心の落下に比較してオーダーが小さいので動かないように見えるという二つの説明があるらしいのです。どちらが正しいのかよくわかりませんが、後者の説明は、私が最初に考えたように質点をバネでつないだモデルで考えているような気がします。バネ全体が同時に縮む、すなわち上端の境界条件の変化が瞬時に下端に伝わるというモデルでは、一番下の質点も最初から動き始めます。質点数が多いと、その動きは非常に小さくなるにしても、Δtの質点数倍後には動き始めます。

 連続体の質量を持つバネで考えれば、一端の境界条件の変化が、他端に伝わるには時間を要するはずだと思います。質量のないバネならば、一瞬で伝わるのかもしれませんが、そのあたりはよくわかりません。いずれにせよ質量のないバネは実在しません。

■錯覚の原因(瞬時の現象)

 最初に動画を見たときにうさん臭いと思ったのは、バネが上端から折りたたむように落下している様子からでした。バネは全体が一様に縮むはずだという思い込みがあったわけです。それは、バネを手で持ったままゆっくりと縮めるという日常的に経験していることからの類推に過ぎませんでした。また、動画では手で持ってぶら下げている時のバネは揺れていたのに、手を放してからは揺れがなくなったのもCG臭い感じがしました。でもそれは、非常に短時間のスローモーションなので揺れの動きが少なかっただけでしょう。スローモーションも日常的には経験しない世界です。

 日常的な感覚を無制限に適用してはいけないと分かっていても、しでかすものですね。バネを落とすだけの実験が非日常的な世界だとは全く思いませんでした。