「営業権」という言葉は混乱のもとー築地市場

 「営業権」とは、M&Aの際に会計に計上する項目に過ぎないと、前記事で説明しました。しかし、「法律に則った権利」と書いてあるツイートを見かけたので、M&A会計以外の意味で使っている法律がないか法令データベースで検索してみました。 

 検索に、16の法令等が引っかかりましたが、総て会計上の項目として記載されていました。それらの内、法律は「法人税法」ただ一つで、他の15は、施行令や施行規則であり、明確には述べてありませんが、「法人税法」に言うところの営業権と解釈できます。これ以外にほぼ同じ意味の「のれん」で調べて見ると、47ありましたが、法律はありません。これらもすべて会計上の項目として記載されいます。

 つまり、移転の権限を含む憲法の財産権の一種という意味で、「営業権」という言葉を法令は使っていないということです。もちろん、そのような権利があると主張し、裁判等で争うことは自由です。ただし、その際「営業権」という言葉を使えば混乱するだけだと思います。

 なお、「営業権」は法人税法他で使われていますが、明確な定義はないようです。一方、会社法では「のれん」という用語になっており、これは、超過収益力(取得原価と純資産価格との差額)として明確に定義されています。のれんは、権利ではありませんが、代理店契約やライセンス契約などの法律的な権利関係を基礎とするものを含めて「営業権」とすることもあるようです。
のれんの会計と実務
 代理店契約やライセンス契約などは、解釈の余地のない明白な権利ですが、築地市場の場合にこれに相当するのは、東京都知事の許可です。これには、移転の権限などありません。営業権組合が主張している「営業権」のうち、長年築き上げた名声や信用に基づく『のれん』は、「鑑札」として売買されているようで、これが会計上の「のれん」にほぼ相当するのではないでしょうか。ただし、東京都に対して移転を拒否出来るような権利は含まないと思います。

 結局、のれん(超過収益力)と都知事許可(権利)の他に移転の権限というようなものを営業権組合は主張しているように思いますが、そういうものがあるのか個人的には疑問です。仮にあるとしても、超過収益力に基づく移転の権限というのは筋が逆転していると思います。他の居住権や借家権の類の権利は、生存権の意味合いであったり、借り手の立場を不安定にしないために設けられています。むしろ、収益力がない業者ほど立場が不安定であり、守られるべきでしょう。

 多くの場合、公共的施設が移転すると、そこに入居している事業者や周辺で営業している事業者に大きな影響がありますので、反対運動は珍しくありません。この種のもめごとの解決は、政治的交渉で行われ、法律に則った権利で処理できる類の問題ではないと思います。